「私には何も言えないけど、忘れることだけはしたらだめだよね」

 私が言うと優香は唇を噛み締めていた。

 帰り際に優香の母親に挨拶をしたが、彼女はここ数週間で随分げっそりしていた。

 きっと娘のしたことがショックだったのだろう。

 私は本当のことを話して、彼女が自分の娘は悪くないと言い張る人ではないと知り、心のどこかでホッとしていた。



 火種が去り、由紀も孤立している。
 もうことが終わり、平和な時間が訪れるのだと私は疑わなかった。



 だが、翌週の月曜日、教室の扉を開けると、想像していなかった光景に目を疑った。