あの現場を見たからこそ、私はその言葉にさっと血の気が引く。

「あまり滅多なことは言わないほうがいいよ」

 証拠は何もない。現段階でも憶測の域を出ていないのだ。

「何、物騒な話をしているんだよ」

 そう隣の席に座っていた伊田君が立ち上がり、馬場さんから写真を取り上げた。そして、村田さんの持っている写真に視線を移す。

「慰謝料ってそういうことか。いじめのね」

 その言葉に別の男子が写真をのぞき込む。

「永田の母親はこの金受け取ったのかね」

「受け取ってんじゃねえ? こんなのに入れるとしたら、すごい大金じゃん」

 私は口を開いた。

「受け取っていないよ。私、同じ日か分からないけど、永田さんの仏壇に参った時、この人達が来たの。二度とそんなお金持ってこないでくれと言っていた」

 本当はそこまで言いたくなかったが、誤った情報がながれるのはそれ以上に避けたかったのだ。ああ言い切った芽衣の母親がお金を受け取ったと言われるのは、あまりに辛すぎる。

「金で解決ってすげえな。どういうお金だったのか、本人に聞いてみたほうが早いよ」