私の顔は涙なのか、はたまた鼻水なのかわからない液体でぐちゃぐちゃ。こんなに苦しいのは生まれて初めてだった。
すると私の髪を優しく撫でる……私のよく知る手がそこにあった。
少し冷たくて…、骨張った指。冷たいのに温かい…何度も繋いだ手は変わらずに私の側にあった。涙が止めどなく溢れる。

しばらくの間彼はずっとそうしていてくれた。涙が出なくなるまで泣いた私は徐々に落ち着きを取り戻した。
すると葵くんはするりと名残惜しく私の髪から手を放した。

『もう大丈夫ですか…?』
こんなときでも私の心配をする彼の優しさが酷く痛かった。
「…う、ん。ごめんなさい…」
私はどうして彼に謝ってばかりなのだろう。謝罪の言葉なんて彼は望んでいないはずなのに。それでも謝らずにはいられず、私の唇は勝手に動くのだ。こんな自分が嫌になる。
『俺は…そんな貴女が…好きでした。』
「………え」
『思い込みが激しくて…、いつも悩んでは俯いて…、でもその瞳はいつも諦めてなんかなくて…俺に心配かけないように無理して作る笑顔が…愛しくて。』
そう私について語る葵くんの顔は…とても幸せそうな顔をしていた。
『その笑顔をみて、俺が守んなきゃ、っていつも思ってたんです。でも…それが出来なくなるのがとても…辛い、です…。』
葵くんの表情は一変し、酷く苦しそうなものになった。
彼の顔を見てるのも辛くなり更に俯きかけた私に"ねぇ"と声が降ってくる。
『……キス…していい、ですか?』
「………っ!…そういうのは…言わないでしょ…普通…」
いきなりの彼の発言に涙もひっこんだ。隠しきれない私の同様に彼はくすくすと笑っていた。
「…わ、笑わないでよ!慣れてないんだから…」
『ふふ、すみません。なんだか可愛いなって』
「馬鹿にしてるでしょ!!」
と紡ごうとした言葉は実際のところ「してる…」のところで消えた。
目の前には彼の顔がいっぱい、唇には柔らかい感触。一瞬の出来事に反応できずにいた私に、彼はくすりと微笑むと、私の頬に手を添えた。それがもう一度の合図だった。