「う…わっ!」
ぐんっと前に力強く引っ張られ私の体は前のめりに傾く。
頭の中の血がいきなり下がり貧血のようなくらくらとした感覚が私を襲う。
再び倒れそうになった私の体は空いてる方の彼の腕で支えられた。


「おいっ!!葵(あおい)!お前、病人になんてことを!」

『このままだと日が暮れそうでしたので』
さらっと言ってのける彼は私の腰からそっと腕を離した。
言い方はきついけど、彼の腕がとても優しく私の体を支えたことに少しドキッとした。ほんの少しだが。

「すまないね…葵には少し病人の扱いを馴れてもらわないと…ついでに女の子の扱いにもね」
『………』
葵と呼ばれたその青年は興味なさげに窓のほうをじっと見つめていた。

「…あ…おい…」
ぽつりと彼の名が自分の口から零れた。自分でも無意識だった。相変わらず声は掠れていた。すると青年は視線だけをこちらに向けた。その瞳はなんだか不思議な力を持っているようで…吸い込まれそうだと思った。しかしそれは隣の医者の声で現実に戻される。

「あ!自己紹介がまだだったね。俺の名前は三戸敬一(みとけいいち)。見ての通り医者をやっているんだ。そして彼が…葵、自己紹介しなさい。」
自称お医者さんの三戸さんに促されて青年はやっと体をこちらに向けた。
『……葵です。』
たった一言。自己紹介はずいぶんとあっさりしたものだった。

これが彼と私の出会い。