私は、高校卒業してスーパーの店員として働きだした。



「なんで、販売にした?」

ハルは、私が週末に休みがとれない仕事に決めた事に不満げに、そう口にした。


私は本当は保育士になりたくて、短大に進みたかった。

でも母の入院で、家もお金には余裕がなく進学はあきらめるしかないと思った。

入学の時は進学するつもりだったから、普通科に進学したため進路相談では、事務系は無理だと進路指導の相談で言われた。


私だって、日曜日が休みのところが良かった。



「平日だって、終わるの遅いんだろ。」
ハルが私を責めた。


「だって、仕方ないよ。就職決まっただけでありがたくおもわなきゃって思ってるよ」


「もう…会えなくなるな」


ハルが言った言葉に少し傷ついた私…



仕方ないじゃん…ハルに言われなくても
そんなのわかってる。


「ちゃんと会える時間つくるよ…私だって、つらいんだ」



ハルは

「そうだな。俺がわがままだな…ごめん」

そう言って、私の頭をポンポンって叩いた。






ハルは、私が仕事の研修で通勤に二時間もかかる日には、高速に乗り車で迎えにも来てくれた。

ハルが休みの日曜日の夜、仕事先の店から出たらハルの車が停まっているのを見つけると、本当に嬉しかった。

「早く乗れよ」

私が車に駆け寄り、ハルが中から助手席の扉を開けてくれる。そのなにげない瞬間が私は好きだった。

ハルの彼女は、私なんだって感じられる。



「ありがとう。お腹すいたねー。ご飯、どこに行こうか」

毎週、ご飯を食べる時間しか会えない。


それでも、幸せだった…






ご飯は大体、いつも家の近くまで帰ってきて、同じファミレスに行く。どこに行こうかって、悩んでる時間もなかったから。



たまに、私が友達からの情報で知った、気になる店を提案しても、ハルはめんどくさいようで

「そこは、また、時間ある時にしよう」

そう言って、いつものファミレスに車を止めた。



「行ってみたかったなぁ」

私がそう言っても、言い返す事もなく、少し不機嫌に店の入り口に足早に歩くハル。



いつもの変わりない席につき、変わりのないメニュー表をながめながら、私は少し悲しくなった。


ハルは、私に何を頼むかも聞かないまま、店員を呼んだ。








二人、いつも同じものを頼んで、特に楽しい話しもないけど、その日一日の流れをざっと話す。付き合って三年近くにもなると、お互いの事を聞き合う事もなく話題がない。


「たまには、ハルのアパートに行きたいなぁ」


ご飯を食べたら、もう21時も過ぎてる。


「明日も仕事だろ。これからあゆを送って、帰るだけでも俺は22時すぎるんだから、無理言うな」


私がせがんで、週に二、三回は夜のご飯を一緒に食べた。でも、本当にご飯を食べるだけになってた。


やっぱり、ハルが言った通り…



会えなくなった私達。


あの頃、初めて不安を感じた。


ハルが、
離れてくかもっ…て。










ハルは、私と会えなくなった日曜日は、友達とツーリングに出かけたり、また友達の彼女なんかも交えて、大勢で遊びに行ったりしているみたいだった。


たまにアパートに行ってくつろいでいても、友達から頻繁に電話がかかってくる。

「ちょっとごめん」


ハルは電話の内容を聞かれたくないのか、一人で部屋を出た。


「ふーん」

私は少しすねながら、でもあまり気にせず、何気なく部屋の床に無造作に置かれたアルバムを開いてみる。


私との思い出が、たくさんあると思って…








でもそこには、私の写真はなかった。



すごく、楽しそうなハルの笑顔。

大勢の真ん中で、笑顔で飲み会してる写真。

ツーリングに出かけて、友達と、かっこつけてる写真。



誰…?この子。
ハルが、知らない女の子の肩を抱いてる。



その写真を見て私は、頭が真っ白になり、とっさにアルバムを閉じた。



でも、でも見てみたい。


もう一度、アルバムを開けてみようと思った。
でもその時、ハルが部屋に戻ってくる音がして、開けられなった。



「悪い。もう帰んなきゃいかない時間だな。送る」

え…いきなり、それ?


ハルにそう言われて、
私は…なんだか、自分がハルにとって

必要が、なくなってきたような気がした。



不安な気持ちこらえながら言った。

「うん。ごめんね。

 …いつも送ってもらって」



本当は帰りたくないよ。

泊まってけよって、言ってほしい。


でも私は、ハルに何も聞けなかった。

肩を抱いた女の子の事も、不安でいる私の思いも言えないまま、立ち上がった。










言い争いになるのもこわかったし、なによりハルが離れていってしまいそうで、こわかった。



ハルは昔から、おちゃらけて女の子の肩なんてよく抱いてたってハルの友達が言ってた。

私と付き合う前の話だけど。



ハルにもハルの付き合いがある。お酒の場ならそんな事、よくある話だって聞く。

社会人だといっても19歳の私。ハルは私をお酒の場に連れていく事は嫌だと言って、まだ居酒屋なんかにも連れていってもらった事はない。


ハルと、ハルの友達。それとその場にいる女の子が、すごく大人に感じた。


おいてけぼり…私だけ。子供のままなんだ。



ハルに何も言えず、不安ばかりが大きくなった。









合う回数は、どんどん少なくなっていった。

私が休みの木曜の夜と、ハルが休みの日曜の夜くらい。
どちらか会えなくて、週に一度の時も少なくなかった。


でも、電話は毎日の習慣。どんなに短い会話でも、私が帰宅する時間に電話をくれたハル。


馴れ合いになって、少しめんどくさそうな声に聞こえる時もあったけど、私はハルからの電話がいつも待ち遠しかった。


ほとんどデートらしい事も出来なくなって、会えない分、電話だけは毎日くれて本当に嬉しかったのに、ある日ハルがこう言った。


「電話、週に二回くらいにしよう」って。



私は、それだけは絶対に嫌だった。




「なんで?会えなくなったのに、ハルの声は毎日聞きたい。そんなの絶対、不安になる。1分でもいいから…かけてきて」


私は、そう口にして涙がこぼれた。


「わかるけど、もうお互いわかりあってんだし、毎日する必要ないだろ。…俺も仕事で疲れてるし、なんも考えないでゆっくりしたい日もある」


「嫌だ。それだけは。ハル」

わがままなのはわかってる。でも、今まで毎日だったのに急に週に二、三回なんて…さみしすぎるよ。


「ごめん。そうさせて。あゆと別れるわけじゃなし、電話が毎日じゃなくても、全然問題ないだろ」


ハルがため息をついた声が聞こえた。
ハルの表情を想像すると、私は受け入れるしかない。


「…わかった。我慢する」



涙がとまらなった。
思わず鼻をすすってしまう。


そう答えてしまって、これからの事が、どんどん不安になる。




「泣かなくてもいいじゃん」

ハルは困っている様子は、声を聞くとわかる。



私は、ハルの事がこんなに好き。
ハルを困らせたくない。



私が日曜日休みだったら、いつまでも

ハルは、私のそばにいてくれたのかな…