その後、神戸の海のそばの公園をふたり歩いた。
よく見ると、あちこちカップルばっかり。
「わ。キスしてる」
ベンチでいちゃいちゃしてる大人のカップルが、あっちにもこっちにも。
「あっち行こう」
ハルも私も目のやり場がなくて、すぐに車に戻った。
止めた車の中から、海に見える船の明かりを見た。
「で、あゆ、いつ結婚してくれるの?」
話の途中で、普通の会話の中、飛び込んでくるハルの口癖。
「まだ、高2の私に何言ってるの」
正直、そのセリフを言われると内心ドキドキが止まらない。私は、こんなふうに照れからごまかす。
「早くあゆと結婚したい」
私も…って言いたかったけど、子供の私は恥ずかしくて、いつも答えずに、はぶらかしてた。
まだ、19と17になったばかりの私達。
ハルは、本当に本気だったのかな。
あの時、「うん」って言わなかった自分に、後悔する。
ハルのお嫁さんになりたい。
あの日のあの時に…ハルに伝えておけば
未来は、何か…変わっていたのかな。
神戸のキラキラした夜景は
私とハルの未来のよう
ずっと、キラキラしたまんま
続いてく…
そう信じていたのに。
高校二年の秋。私の修学旅行の日、新大阪まで送ってくれたハル。
新幹線に乗って、九州に三泊四日。
「あゆ、後でこれ読んで」
手渡されたのは、ハルから私への手紙だった。
「えー。…嬉しい。何書いてるの?」
ハルは柄にもなく、たまに私に手紙を書いてくれた。
普段、無口なハルから、私は手紙でたくさんの愛をもらう。
新幹線で、開けてみたハルからの手紙。
私の一生の宝物。
愛しいあゆへ
あゆは、いつも元気な笑顔で俺のそばにいてくれるけど、いつも何か我慢してないかって心配になる。
あゆは、お母さんの事もあっていつも大変なのに、あゆを見てたら、俺なんかと付き合ってくれて、可哀想と思う。
こんな俺やけど、少しでもあゆの力になれたらなっていつも思ってる。
こんなに頼りない俺の事、いつも好きって言ってくれてありがとう。
修学旅行では、友達といっぱい楽しんでおいで。
また、帰ってきたら電話くれ。
またかと、あゆは呆れるかもしれないが、俺はあゆと早く結婚したい。マジで、本気の本気。
気をつけて、楽しんできて。
あゆがいないとさみしいハルより
いつも、恥ずかしいほど照れる内容。
愛されてる幸せ…本当に感じた。
ハルの普段のクールさからは、想像できない。
一見、冷たそうに見えて
私には世界で一番、優しくて
大切なひと。
高3の冬。12月27日。
二年前、ハルがお母さんの事、話してくれた。
二年経った、その日。
母が、突然、意識不明になり
亡くなった。
病状も少し落ちつき、退院して家で療養していた。
少しずつ、元気になっていたのに…
私は冬休みで、最後の日、母と過ごしていた。
昼には、一緒にうどんを食べて、こたつの中でテレビを見てゆっくり過ごしてた。
夕方、5時を過ぎてから、母が急に声を殺して泣き出した。
「お母さん、どうしたの?」
私が母の腕に触れても、何も言わないで泣くだけ。
「どうしたの?トイレ?」
とりあえず立たせてトイレに連れていった。
母の様子…おかしすぎる
私は、不安で一杯になった。
母は、涙を一杯流して…
それから…大きないびきをかいたかと思うと
それから意識を失い、倒れた。
声を殺してたんじゃない。
もう、声も出ない状態だった…
その日、長い時間かけた手術の甲斐もなく
母は、この世を去った…