私は、ハルをそばで支えたかった。


でも、ハルはそれからしばらく連絡してこなかった。


私は、やっぱり不安で一杯になって1週間も我慢できなかった。そうして、ハルに電話してしまう。


ハルは少し疲れた声で、電話に出た。


「まだ、仕事も決まらないしバイトで忙しいから。でも、あゆから電話くれて嬉しかった。住むとこは、まだまだ見通しがつかないから、もう少し。もう少し待ってて」



ハルは、いつも一人で頑張る人なんだ。


私は、ハルが落ちつくまで…ハルの仕事が決まってハルが自分に少しでも自信が持てるようになるまで待とうと思った。



それから2週間…連絡はなかった。






さすがに、3週間会えなく電話もないのは不安だったけど、ある日、私が学校から帰ってくるとハルが家の前でバイクに座ってた。


「あゆ、待たせてごめん。仕事、やっと落ちついた。」



私はハルの顔を見た途端、今までの不安で緊張した心が一気に安らぎに変わるのを感じた。



「よかった。ハルに…会いたかった」



ハルは、まだ友達の家にいて、やっぱり実家には二度と帰らないと言った。理由は、おやじと合わないから…と。


ハルは、以前より痩せていて…
でも、以前の笑顔のハルに戻っていて…



しばらく会えなかった間に、私はより一層…

ハルを好きになっていることに…
気がついたんだ。






ハルはしばらくして、単身者用のアパートを見つけた。

男子専用。トイレもお風呂も兼用。


たった四畳半に、ロフトベッド付き。


「笑うくらい狭いだろ」

ハルは苦笑した。


でも、私はこれでいつでもハルに会えると嬉しかった。

本当は女子禁制らしい。私は、誰にも見つからないようにそっーと、アパートの玄関を開け、ハルの部屋に入った。


あの頃は、ふたり


本当にお金がなくて、ガソリン代だってなくって、


1日、あのアパートで過ごしてたね。


ゲームばっかりしてた。そして…


キスして、抱き合ってばかりいた。



17歳の私と…19歳のハル。
一番、いつもそばにいられたあの頃…






そうして、なんとか少し余裕のできたハル。


あれから、バイクを売り、中古の車に乗り換えたハル。



本当はバイクは、もう少し乗ってて欲しかった。

「冬は寒すぎるし、来年は二十歳になるし、そろそろ車が欲しかった」 


ハルはそう言って、無理して買った車にムートンを敷いたり、ちょっと飾りをつけて派手にして嬉しそうだった。



「神戸に行こう」


1日アパートで過ごし、もう日がくれる頃に、ハルが突然、言い出した。



「今から?本当に?」

私はもう送ってもらう時間になって、淋しい気持ちでいたその時の、まさかのハルの言葉がすごく嬉しかったな…







神戸に行く、高速道路から見える夜景はキラキラして、本当にきれいだった。


夜からこんなに遠くにデートした事が、今までなかったからすごく嬉しかった。




神戸の海の近くの、お洒落なレストランに入った。



大きなホールに、ピアノの生演奏が聴ける。
テーブルにつくと、お店の人が椅子をひいてくれた。


「すごい。私、こんなお洒落な店、来たの初めて」


「俺もだよ」



二人はちょっと緊張しながら、でもすごく楽しい時間を過ごした。


ハンバーグステーキ、すごく美味しかった。



「また来ような」

そう約束したけど、あれから一度も行けなかったね…






その後、神戸の海のそばの公園をふたり歩いた。

よく見ると、あちこちカップルばっかり。


「わ。キスしてる」

ベンチでいちゃいちゃしてる大人のカップルが、あっちにもこっちにも。



「あっち行こう」

ハルも私も目のやり場がなくて、すぐに車に戻った。


止めた車の中から、海に見える船の明かりを見た。











「で、あゆ、いつ結婚してくれるの?」


話の途中で、普通の会話の中、飛び込んでくるハルの口癖。


「まだ、高2の私に何言ってるの」

正直、そのセリフを言われると内心ドキドキが止まらない。私は、こんなふうに照れからごまかす。


「早くあゆと結婚したい」



私も…って言いたかったけど、子供の私は恥ずかしくて、いつも答えずに、はぶらかしてた。

まだ、19と17になったばかりの私達。



ハルは、本当に本気だったのかな。



あの時、「うん」って言わなかった自分に、後悔する。




ハルのお嫁さんになりたい。




あの日のあの時に…ハルに伝えておけば


未来は、何か…変わっていたのかな。














神戸のキラキラした夜景は



私とハルの未来のよう




ずっと、キラキラしたまんま



続いてく…



そう信じていたのに。













高校二年の秋。私の修学旅行の日、新大阪まで送ってくれたハル。



新幹線に乗って、九州に三泊四日。

「あゆ、後でこれ読んで」

手渡されたのは、ハルから私への手紙だった。





「えー。…嬉しい。何書いてるの?」

ハルは柄にもなく、たまに私に手紙を書いてくれた。
普段、無口なハルから、私は手紙でたくさんの愛をもらう。



新幹線で、開けてみたハルからの手紙。
私の一生の宝物。