2月の真夜中を、二人でバイクでかけぬけたあの日。



ハルの事しか、見えなくなってた。



その日、またそっーと、今度はハルの家のドアを開け、ハルの布団にもぐり込んだ。


家族の人に見つかっちゃったら、どうしよう。



「おやじに気づかれたら、俺、殺されるかも」

こそこそ話で、ハルは少し笑った。私が本気にして、少しおびえた顔をしたら


「…大丈夫。眠たい。寝よ…」

そう言って、ふたり小さな布団の中で抱き合った。



ハルのお父さんも厳しい人って聞いてたから、私も見つかっちゃったらどうなるんだろうって、こわかった。






ハルの息…


ハルの肌…


私は心地よくて、幸せだった。





真夜中に、こんなに寒い夜に、40分もかけて…
…私のために、バイクで迎えにきてくれた…


そんなハルが愛おしくて…


何度も…何度も、キスをした…




大好きなハルの体は、あったかかった。






あの頃は、「大人になりたい」

そんな事ばかり考えてた。


ハルやハルの友達が煙草をすう仕草が、かっこよく大人に見えた。


初めて、ハルとキスした時は、煙草の味?!苦い~って思った。でも、ハルの唇に重ねるうちに私はその感触が、ハルって感じがして、煙草の匂いに安らいだ。


「私も煙草、すおうかなぁ」

煙草の匂いをかぐと、ハルを感じるから。
思いつきで、そう口にした私。




私の言葉に、たちまち、ムッとした表情になったハル。

「あゆはすうな。女は子供を産むんだからな」



「…うん。わかった。すわないよ。ただ、言ってみただけ」


ハルから子供って言葉が出て、思わず私達の子供?って、考えてしまった。ただ、単に女が煙草をすうのが好きじゃないって意味かもしれない。


でも、私はその後、ちょっと想像してしまう。



ハルと私の赤ちゃん、欲しいなぁって。



あの頃、授業中、よく教科書に落書きしてたな…

想像のハルと私の…


赤ちゃんの顔。







ハルが、会社を辞めた。

頑張ってバイクで出勤していたのに、重いものばかり持つ重労働だったので、腰を傷めてしまった。


ハルは初め、私にはその事を言ってくれなかった。

ハルの様子が少しおかしくて、落ち着かない様子だった。
でも、私は何か他の事、友達となんかあったのかなとか想像して、気づかないふりして無邪気なふりをした。


ハルは、そうするとちょっとなげやりな感じで話した。


「俺、仕事やめたから」


私は少しびっくりして


「…なんで?」

ハルを少し追いたてるように言ってしまった。






「だから、あゆとはしばらく会えない」

ハルのその言葉にびっくりした。



「なんで?仕事やめたら会えないの?」

私は意味が分からなかった。



「あゆには、言ってなかったけど、俺、家でたから」

ハルが話してくれた。ハルは父親と喧嘩して、もうしばらく家に帰ってないこと。そして、これからも帰るつもりはなく、一人で暮らしていく事を決めた事。


仕事も探さないといけないし、今は友達の家に厄介になってるから、早くお金を稼がないといけないこと。


ハルが言ってる意味が、私と別れたいとかじゃないとわかって、少しホッとしたけど、ハルがそんなに悩んで一人で行動してたことが、私はつらかった。








私は、ハルをそばで支えたかった。


でも、ハルはそれからしばらく連絡してこなかった。


私は、やっぱり不安で一杯になって1週間も我慢できなかった。そうして、ハルに電話してしまう。


ハルは少し疲れた声で、電話に出た。


「まだ、仕事も決まらないしバイトで忙しいから。でも、あゆから電話くれて嬉しかった。住むとこは、まだまだ見通しがつかないから、もう少し。もう少し待ってて」



ハルは、いつも一人で頑張る人なんだ。


私は、ハルが落ちつくまで…ハルの仕事が決まってハルが自分に少しでも自信が持てるようになるまで待とうと思った。



それから2週間…連絡はなかった。






さすがに、3週間会えなく電話もないのは不安だったけど、ある日、私が学校から帰ってくるとハルが家の前でバイクに座ってた。


「あゆ、待たせてごめん。仕事、やっと落ちついた。」



私はハルの顔を見た途端、今までの不安で緊張した心が一気に安らぎに変わるのを感じた。



「よかった。ハルに…会いたかった」



ハルは、まだ友達の家にいて、やっぱり実家には二度と帰らないと言った。理由は、おやじと合わないから…と。


ハルは、以前より痩せていて…
でも、以前の笑顔のハルに戻っていて…



しばらく会えなかった間に、私はより一層…

ハルを好きになっていることに…
気がついたんだ。






ハルはしばらくして、単身者用のアパートを見つけた。

男子専用。トイレもお風呂も兼用。


たった四畳半に、ロフトベッド付き。


「笑うくらい狭いだろ」

ハルは苦笑した。


でも、私はこれでいつでもハルに会えると嬉しかった。

本当は女子禁制らしい。私は、誰にも見つからないようにそっーと、アパートの玄関を開け、ハルの部屋に入った。


あの頃は、ふたり


本当にお金がなくて、ガソリン代だってなくって、


1日、あのアパートで過ごしてたね。


ゲームばっかりしてた。そして…


キスして、抱き合ってばかりいた。



17歳の私と…19歳のハル。
一番、いつもそばにいられたあの頃…