遊歩道の先の、枯れ葉が舞う公園。
私が小学生の頃、よくかけっこなんかした普通の公園。


夜7時にもなると、人の姿は見えない高台。


ハルが公園の真ん中で立ち止まり、いきなり私の事を抱きしめてくれた。



「ハル、人がくるかも」


私が照れていると、ハルはもっと強く私の事を強く抱きしめた。


「今年は、あゆと会えたの今日が最後かな」


いつ、誰がやってくるかもしれない場所で、私はハルに抱きしめられながら鼓動がどきどきするのを、感じた。



「キスしよ」


ハルの事が、愛おしくて…たまらない。


「あゆは、俺が初めて本気になった女だから」

そんな事言われて、思わず顔が赤くなる。




「明日も会いたい。まだ27日だよ」

甘える私に


「駄目。バイト休みすぎたし」

そう言いながら、ぎゅっときつく抱きしめられる。



「ごめん。年明けはバイトないから、一番に会おうな」

それから、しばらく抱き合ってハルの息、ハルの煙草の匂いを感じながら…


私はハルの腕の中で、深い安らぎを感じた。





この日に初めて、話してくれた。


付き合って2ヶ月近くも経って…?なんで…?



初めは思ったけど、ハルは言えなかったんだ。


悲しい現実を認めるのが、こわかったのかもしれない。



ハルのお母さんが、私と知り合う少し前に、亡くなったと言うこと。


とても珍しい病気で、本当に突然の事だったと聞いた。




お母さんを亡くしてすぐに、友達の家で、たまたま私の入学式の写真を見て、私がお母さんに似てると思ったって。


ほんとは、似ても似つかないのに…


なぜか、私を見てなつかしい…
そんな感情を覚えたって、言ってくれたんだ。


私は、そんなハルがまた愛しく感じた…



恋が…愛になる…
そんな感情を初めて知ったんだ。


あの日の…
ハルの手のぬくもりと一緒に、覚えてる。










ハルは高校を卒業し、工場に就職した。



平日に会えなくたったけど、相変わらず週末は私のために時間をつくってくれた。


やっぱり、私はハルの背中が好き。
ハルのバイクにしがみついているときが、私の一番好きな時間だった。

ハルはあの頃、私の母のこともよく気にしてくれて、デートの途中に、いつも病院に寄ってくれた。

私はそんなハルの気遣いが、すごく嬉しかった。


そんなある日。

「…あのさ、お母さんがハルに会いたいんだって」


倒れて一年経っても、まだ退院できなかった母。
ハルは、いつも外で待ってると病室までは来たことがなかった。


私も、母は手術の時、頭を丸坊主に刈られたし、記憶も曖昧の日が多かったから、いつもハルには一緒に来てと言えなかった。


ハルも病室まで行くのは、さすがに嫌だろうと思ってたんだ。だから、ハルはやめとくって言うと思った。



でもハルは、

「ああ。行くよ」

そうすぐに答えたんだ。すごく嬉しかった。




ハルを見て母は

「格好いい彼氏だね。あゆがいつもお世話になってます。ありがとう」


って、いって微笑んでくれた。ハルはぺこりと頭を下げてから 



「あゆさんと、お付き合いさせてもらっています。よろしくお願いします」

ハルらしくない大人の挨拶に、ドキッとした。



あの時、もしかして私はハルのお嫁さんになれるんじゃないかって、初めて思ったんだ。








ハルと出会い、一年が過ぎた。

「帰りたくないなぁ」

会うといつも別れが淋しくて仕方なくなる。




「ハルんち、泊まりたい」

私がそんなふうに言うと

「そんなことしたら、あゆのおやじさんに殴られるよ」

ハルが苦笑した。



「じゃあ、朝早く。4時。ううん、2時に迎えに来てよ」



今思えば、それだってそれから寝ちゃうんだから、外泊なんだろう。17歳の私は、それだと大丈夫なんて考えてた。

「あゆが、そう言うんなら本当に迎えに行くからな」


ハルは笑いながら答えた。相手にしてくれないような、本気じゃない感じがした。


私はとりあえずお風呂に入った。


夜中の12時。ハル…さっきのは本気?冗談?


わかんないよ…。










とりあえず布団の中に入った。

2月…寒いよー。布団の中でも、暖房なしじゃ震えてしまう。


ハル…こんなに寒いし来ないよね…


ハルに、会いたいなぁ。ハル…もう寝たかな。


眠れない。私は、なんだかハルがやっぱりきてくれるんじゃないかと期待してしまう。

そして起き上がり、家族にばれないようにそっと服に着替えて軽く化粧をした。





眠れないまま、時計を見ると1時30分。

…45分。


その時、遠くから近づいてくる音。

ハル…ハルのバイクの走る音、聞こえた。



「ハル」

私は、家族に気づかれないようにそっと家の玄関をそっーと開けて、ハルのもとへと走った。



「ほんとに来てくれると思わなかった」

私は、はしゃいだ。



「ごめん。寒かったでしょ」

ハルの肩にを触ると、氷みたいに冷たかった。
その後、ハルは私の事をぎゅっと抱きしめて


「あゆが出てこなかったら、どうしようと思ったよ」

そういう唇まで寒さで震えてた。



ハルは、自分も寒いのに、巻いていたマフラーを私に巻いてくれた。ハルの優しさを深く感じた…








2月の真夜中を、二人でバイクでかけぬけたあの日。



ハルの事しか、見えなくなってた。



その日、またそっーと、今度はハルの家のドアを開け、ハルの布団にもぐり込んだ。


家族の人に見つかっちゃったら、どうしよう。



「おやじに気づかれたら、俺、殺されるかも」

こそこそ話で、ハルは少し笑った。私が本気にして、少しおびえた顔をしたら


「…大丈夫。眠たい。寝よ…」

そう言って、ふたり小さな布団の中で抱き合った。



ハルのお父さんも厳しい人って聞いてたから、私も見つかっちゃったらどうなるんだろうって、こわかった。






ハルの息…


ハルの肌…


私は心地よくて、幸せだった。





真夜中に、こんなに寒い夜に、40分もかけて…
…私のために、バイクで迎えにきてくれた…


そんなハルが愛おしくて…


何度も…何度も、キスをした…




大好きなハルの体は、あったかかった。






あの頃は、「大人になりたい」

そんな事ばかり考えてた。


ハルやハルの友達が煙草をすう仕草が、かっこよく大人に見えた。


初めて、ハルとキスした時は、煙草の味?!苦い~って思った。でも、ハルの唇に重ねるうちに私はその感触が、ハルって感じがして、煙草の匂いに安らいだ。


「私も煙草、すおうかなぁ」

煙草の匂いをかぐと、ハルを感じるから。
思いつきで、そう口にした私。