ハルに…会いたい。




考えるのは




それだけ。







私が高1、ハルが高3の秋…

ハルと私が出会い、恋が始まった。


ハルから電話をもらった時、私はお母さんが入院しているから、家事をしなきゃいけない日もあることを話した。


「あゆも…大変なんだ。病院行く日は言って。病院まで送るから」


ハルって、意外と優しい。

それに、声がすごくかっこよくて、私はハルからの電話が楽しみだった。


「親は大事にしないとな」


そればかり言ってくれる。その時、何故か私は、ハルの声が少し寂しそうに聞こえた。



「ハルのお母さん、どんな人?」

何気なく聞いた私に


「まぁ、また話すよ」


としか、その時は言わなかったハル。



本当は、まだ悲しみから抜けきれずに、もがいていた時期だったのかも…


また、私はハルを想い、苦しくなる。







ハルは、車の免許を持っていたけど、私と付き合ってから自動二輪の免許も取りに行った。


「スゲエかっこいいバイク、見つけた」


ハルは、ピンクの原付を友達に譲って、400CCのバイクを買った。


「ピンクってハル、もしかして、前の彼女からもらったとか」


いつもふざけて聞いてた。本当はずっと、そんなふうにやきもち妬いていたんだ。 



ハルが、真面目に答えた。

「違います。ピンクは俺が、自分で塗装しました」



ほんと!よく見るとムラがあり素人が塗った感じ。



「敬語使うとこが、怪しいよね~」



私は、私と知り合う前のハルがどんなふうな過ごしていたか気になった。少しずつ、私はハルに惹かれていった。




「明日、病院いくだろ?学校に迎えに行く」


ハルからの電話。付き合って1ヶ月。
バイクで、学校までいつも迎えにきてくれる。


初めてハルにバイクに乗せてもらった時は、少しこわかった。



「制服なのに、スカート舞っちゃったらどうしよう」

学校の門の前で、待っていてくれたハルから、ヘルメットを渡される。


「大丈夫。あゆのパンツなんて誰も気にしないよ」


私は、ハルのお尻をパンと叩いて言った。


「絶対、転ばないでね。まだ、死にたくないから」



「当たり前だろ。早く、メット被れ」

そう言って、私に手渡したハルのヘルメットを再び手に取り、私に被せてくれた。


ハル自身は、友達から譲ってもらった古いヘルメットを被ってる。


何も言わず、そうしてくれる。


ハルの優しさが、嬉しかった。







それから、毎週のように日曜日になると、山や海に連れていってくれたハル。


風になびかれなから、ハルの体に手をまわす。


「落ちちゃう。こわい」

初めは本当に、バイクの後ろがこわかった。


「大丈夫。しっかり背中に手を回して」

そうして、私はハルの背中に抱きつく。


「ハルの背中、おっきいね」

バイクに乗るたび、背中に大きく手を伸ばし、ハルの後ろの首筋あたりをいつも見つめる。


その首筋に、ドキっとする。


それから、ヘルメットを取るときのハルの仕草が好き。

つむじが普通の人より下の方にある。


そんなハル自身も知らないハルを、一つずつ見つけく。


バイクで風になびかれ、ハルの体にいつも抱きついてた。


少しずつ、少しずつ、

大切な人だと感じ始めてた、あの頃…



どきどき…好きな気持ちが

少しずつ、大きくなってた。






…毎週末、ハルとバイクでのデートが、楽しかった。
でも、バイクで家まで送ってもらう時が、本当に寂しかった。


「あゆはまだ高1なんだから、7時な」

そう言ってバイクから降ろされる。




「中学生じゃないんだから、9時まで」

私が拗ねると

「あゆんち、門限8時って言ってたろ。早く、帰れ」 



ハルがすごく冷たく感じる。
私に対しては、いつも厳しいハル。



「私、まだ帰んないから。一人でぶらぶらしてくる」



私の、ハルへの小さな抵抗。
本当は、私が思うよりハルは…私の事を好きじゃないのかもしれないって不安だったんだ。


でも、必ずハルはそう言うと


「風邪引くから、早く帰れっていってんのに」


そう言って、バイクを私の家から少し離れた所に止めた。













少し、離れた場所に停めるのは、バイクの音が響いて、私の父に気付かれないようにした。


私の父は、昔かたぎでバイクに乗るのは暴走族みたいに思ってて、私がそんな父の事を話したから。


堅物な父は、ハルの姿を一度見かけて、私が家に帰るなりこう怒鳴った。



「暴走族みたいな奴とは付き合うな」


…それから、私は父と話すのを避けた。ハルの事、なにも知らないのにひどいと思った。



でも、今思えば…


ハルは私の父のことも考えて、きちんと門限までに送ってくれてたんだねって気づいた…



私が、子供過ぎたんだね…







早めに送ってもらい、その後はいつも、私の門限8時まで、近くの遊歩道を二人で歩いた。


ハルの手は、本当にあたたかい。

真冬、凍える寒さ。


ハルは手を繋いだまま、その手を自分の上着のポケットにいれてくれる。



「ハルの手は、カイロみたいにあったかいね」

私はいつもその台詞。


「血管、太いのかな。冬はいいけど、夏は汗かきで最悪」

ハルは自分の手が、人よりあたたかいの気にしてた。
汗かきで、手をさわられるのも初めは拒んでた。


「私はハルの手が、一番落ちついて大好き」


本当に…ハルの手は…

あったかくて。大好きだったんだ…













遊歩道の先の、枯れ葉が舞う公園。
私が小学生の頃、よくかけっこなんかした普通の公園。


夜7時にもなると、人の姿は見えない高台。


ハルが公園の真ん中で立ち止まり、いきなり私の事を抱きしめてくれた。



「ハル、人がくるかも」


私が照れていると、ハルはもっと強く私の事を強く抱きしめた。


「今年は、あゆと会えたの今日が最後かな」


いつ、誰がやってくるかもしれない場所で、私はハルに抱きしめられながら鼓動がどきどきするのを、感じた。



「キスしよ」


ハルの事が、愛おしくて…たまらない。


「あゆは、俺が初めて本気になった女だから」

そんな事言われて、思わず顔が赤くなる。




「明日も会いたい。まだ27日だよ」

甘える私に


「駄目。バイト休みすぎたし」

そう言いながら、ぎゅっときつく抱きしめられる。



「ごめん。年明けはバイトないから、一番に会おうな」

それから、しばらく抱き合ってハルの息、ハルの煙草の匂いを感じながら…


私はハルの腕の中で、深い安らぎを感じた。