私はベッドに倒れこんだまま、ハルを見上げた。
ハルは、私から目をそらしたまま何も口にしない。



そうして、私は現実を認めたくなかったけど


「…別れるの…?」

って聞いたら






「あぁ」

って言ったんだ。ハルが。





絶対に聞きたくなかった。ハルの言葉。

認めたくなかった。ハルとの別れ。


嘘って言ってよ。



ハルは、今まで見たことのない憎しみに満ちたような
こわい表情をしてる。


こわかった。



私はゆっくり立ち上がり、それから玄関に向かう。



こんな悲しい日がくるなんて、出会った頃は想像もしなかった。






それから私は、部屋の扉を開けて一目散に走った。


下へ降りるエレベーターさえ待つ余裕もなく、私は6階の部屋から階段をかけ降りた。
 


マンションの入り口に停めていた、私のバイク。

バイクを横目に走り抜けた。


あの子、誰?!

本当にいたんだ。
いつから?


わかんない。なんで…?


ハルは心変わりしてた。
私の想像だけで、あってほしかったのに。





でも、私の想像は


現実だったんだ。




ハルに好きな人が出来たんだ。
もう私の事は好きでなくなったんだ。


信じたくないよ…






ハルの部屋から駅まで5分もあればついてしまう。


でも、私は電車には乗れなかった。

あふれ出る涙。認めたくない現実。




ハルと別れた…?




ハルと私の恋が終わった…?




本当に?





涙で、なにも見えない。








自分の家まで歩くか‥
一駅の距離。たぶん歩けるよ‥


何も考えたくないし、考えられない。




すぐには、家に帰れない。家族が心配する。
気がつけば、涙が止まらなくなってる自分に気づく。




心が‥ボロボロの私は‥





ただ

歩いて

歩いて


何十分かけて
家路にたどり着いた。






「おかえり」

いつもの、姉の声。





「‥ただいま」

いつもの、私の声。

あれ

普通に声が出る。




夢のような悲しい出来事から一気に、いつもの日常に戻った気がした。

でもすぐに
また不安な気持ちに襲われる。

やっぱり、認めたくない。


ハルとの別れ。






「ご飯、食べた?」

いつもの、日常。母のような姉の…いつものセリフ。



「…食べてないけど、今日はいらない」

私は姉の顔が見れなかった。泣き顔の跡は見せられない。
 



「ハルくんと、喧嘩でもした?」

いつもと違う私の様子に、姉が気がついた。




姉の声に、私の噛みしめた唇が震えた。無言のまま、自分の部屋にすばやく入り、ベッドに潜り込む。




「大丈夫?」

姉の心配そうな声が聞こえても、今の私には答える余裕さえない。



ベッドの中で、いつもの自分の部屋の天井を見つめる。



いつもの天井。


あれ…
いつもと同じ夜だよ。




さっきのは夢?
私とハルは、別れてなんかない。



喧嘩だよ。ただの。
さっきのは。


涙も枯れて、ぼんやりそんな事を考える。


涙が渇いて、肌がつっぱる。


違う。本当に別れたんだ。
今日、ハルと私は…



ハルのあのこわい表情が、頭によみがえる。




「出ていって」

ハルは…ハルは、そう確かに言った。



ハルと、別れた。



また、本当の現実に振り戻される。