もうずいぶん前に、ハルの部屋の鍵を開けて入ったら、女物のロングブーツがあって…ハルが慌てて玄関に来たんだ。
私は、突然の事でどうしたらいいかわかんなくて
そうしたら、ハルがあわてた様子で
「今日は帰って。妹、来てるから」
って中に入れてくれなかった。妹…?妹でなんで?って思うでしょ?
口紅の煙草の事は、友達の彼女のものって言ってたけど、たぶん違うと思う…
…そう話す私の前で、うん、うんってうなずいて聞いてくれた真理…
「…居酒屋でも行く?…駄目か。私達、飲めないし、19だし」
真理は、私が一人で話すのを何も否定せず、ただ聞いてくれた。
私も思いを口にして、少しだけ楽になれた気がした。その時は…
「大丈夫。真理も明日も仕事でしょ。今日はありがとう。帰るよ」
楽になれた。一瞬思い…
バスで一人になると、また…
涙が止まらない。
まわりに気付かれないように、私は一番後ろの座席に移動した。
肩を震わせながら、涙がどうしても止められなかった。
ハル…本当に本当に、別れたの?
いつものように、電話がかかってきて
「昨日はごめん。会えない?」
そんなハルを想像してしまう。
昨日のは、ただの喧嘩で
ハルのちょっとした浮気で
そうして、いつもの喧嘩の後に言ってくれる
「ごめん。悪かった」
そう…言ってくれないの?
もう、本当に終わったの…?
あれから、一週間たった。
ぼんやりと電話ばかり見つめ、そんなこと考える私の横を、お風呂から上がった姉が通りすぎる。
「忘れないと駄目だよ。いい加減」
私より5歳、ハルより3歳年上の姉。
三年半も付き合えば、旅行にいけばハルの分までおみやげ買ってきてくれたり、またハルも姉の誕生日にプレゼント用意してくれたり…すごく仲良くってわけじゃないけど、それなりにハルを弟みたいに可愛がってくれてた。
姉も、ショック受けてた。
段々と、私の中で、現実になってくる。
周りが私とハルの別れを知り、私はそれを現実と認めなくてはならなくなる。
苦しい…
悲しい…
つらい…
どうしても、どうしても、あきらめきれない。
なんで…?なんで、好きな気持ち、消さなきゃいけないの…?
あんなに冷たくされて、
出ていけって、振り払われて。
あんなに冷たくされても、まだハルが好きな気持ちってなんなんだろう…
やっぱり、私はハルが好き。
どうしても。
片思いでいい。
でも、思うのはこればかり…
ハルに会いたい。
ハルの声が聞きたい。
ハルに触れたい。
夢だっていいよ…
ハルに会いたいんだ…
私は今、ぼんやりとしか生きられない。
日常の中で、ハルへの思い出だけがくるくるまわる。
ハルに…会いたい。
考えるのは
それだけ。
私が高1、ハルが高3の秋…
ハルと私が出会い、恋が始まった。
ハルから電話をもらった時、私はお母さんが入院しているから、家事をしなきゃいけない日もあることを話した。
「あゆも…大変なんだ。病院行く日は言って。病院まで送るから」
ハルって、意外と優しい。
それに、声がすごくかっこよくて、私はハルからの電話が楽しみだった。
「親は大事にしないとな」
そればかり言ってくれる。その時、何故か私は、ハルの声が少し寂しそうに聞こえた。
「ハルのお母さん、どんな人?」
何気なく聞いた私に
「まぁ、また話すよ」
としか、その時は言わなかったハル。
本当は、まだ悲しみから抜けきれずに、もがいていた時期だったのかも…
また、私はハルを想い、苦しくなる。