「声…尾崎豊に似てるね」
私は尾崎のファン。だから、目の前の彼の声がすごく格好いいと思った。
「えー。言われたことない」
そんな会話から始まって、後は自然に自分の事を話し始めた。
本当はすごく緊張してて、思わず友達に電話しちゃったことも話してくれた。
歩くのがはやい。
背も高い。
声が素敵…。
何故か、どきどきした。もう少し、彼の事が知りたいかも。
「付き合ってくれる…?」
何気ない会話の中で、一度立ち止まり
「あ…はい…」
気がつけば、そう答えてた。
まだ、恋をしていないのに、
お見合いの様に、私達の恋が始まった。
会ってすぐ。二時間もしないうちに…
ぼんやり、ハルとの出会いを思い、そして鮮明に私の記憶によみがえってくるハルとの会話。
ハルの表情。
ハルの声。しぐさ…
「セブンスターください」
お客さんの声に、ふと我にかえる私。
慌てて対応して…
仕事…やっぱり、手につかない。
夕方になり、バイトが終わる時間。
帳簿をつけて、レジの精算をしていると
「あーゆちゃん」
振り向くと、真理がいた。真理は前の職場でできた親友。
「真理~…」
「仕事、上がりでしょ?ご飯、食べにいこうよ」
昨日、泣きながら真理に電話した。
心配して、会いに来てくれたんだと思うと、また涙ぐんでしまった。
いつものファミレスで、真理と過ごす。
「で…別れちゃた理由は?昨日の電話じゃ、わかんない」
昨日は、泣き崩れてベッドの中から思わず真理に電話した。心配してくれている真理の優しさに、また涙がこぼれてしまう。
「私も、なんでかわかんないんだよね…」
そううつむく私に、苦笑いした真理。
「ま、いいや。食べよ」
真理に別れた話をすると、やっぱり昨日の事は現実なんだと再確認してしまう。
「…この前、ハルくんの部屋に行った時、口紅がついた煙草があったっていってたじゃん。あれ…?」
胸が苦しくなり、手が少し震える。
「まぁ。たぶん。…というか、絶対」
「絶対?決定的ななんかがあったんだ…」
真理の言葉の返しが早すぎて、ぼっとしてしまう。
そうして私は、真理に少しずつ昨日の事、今までの事、話し始めた。
もうずいぶん前に、ハルの部屋の鍵を開けて入ったら、女物のロングブーツがあって…ハルが慌てて玄関に来たんだ。
私は、突然の事でどうしたらいいかわかんなくて
そうしたら、ハルがあわてた様子で
「今日は帰って。妹、来てるから」
って中に入れてくれなかった。妹…?妹でなんで?って思うでしょ?
口紅の煙草の事は、友達の彼女のものって言ってたけど、たぶん違うと思う…
…そう話す私の前で、うん、うんってうなずいて聞いてくれた真理…
「…居酒屋でも行く?…駄目か。私達、飲めないし、19だし」
真理は、私が一人で話すのを何も否定せず、ただ聞いてくれた。
私も思いを口にして、少しだけ楽になれた気がした。その時は…
「大丈夫。真理も明日も仕事でしょ。今日はありがとう。帰るよ」
楽になれた。一瞬思い…
バスで一人になると、また…
涙が止まらない。
まわりに気付かれないように、私は一番後ろの座席に移動した。
肩を震わせながら、涙がどうしても止められなかった。
ハル…本当に本当に、別れたの?
いつものように、電話がかかってきて
「昨日はごめん。会えない?」
そんなハルを想像してしまう。
昨日のは、ただの喧嘩で
ハルのちょっとした浮気で
そうして、いつもの喧嘩の後に言ってくれる
「ごめん。悪かった」
そう…言ってくれないの?
もう、本当に終わったの…?