「ごめん。ごめん。彼女さん。」
サングラスヤンキーくんが答えた。
「俺、コイツに借りた原チャリ、返しにきただけだから」
「いえ。私、帰るからゆっくり話しててください」
そう、言うとサングラスヤンキーくんが、彼の腕を叩き
「ハル、もう失恋?可哀想…。早く、気持ち伝えてみ」
そう言って、手をふって消えていった。
何…?また、二人。
わけがわからなく、どうしようと思っていたら
「ごめん。変なの来てびっくりした?…少し、歩かない?まだ、ちょっと話がしたい」
そう言われて、え…どうしよう。
「…じゃあ、少しだけ」
そういいながら、私は二人になれた事が
少し嬉しかった。
「声…尾崎豊に似てるね」
私は尾崎のファン。だから、目の前の彼の声がすごく格好いいと思った。
「えー。言われたことない」
そんな会話から始まって、後は自然に自分の事を話し始めた。
本当はすごく緊張してて、思わず友達に電話しちゃったことも話してくれた。
歩くのがはやい。
背も高い。
声が素敵…。
何故か、どきどきした。もう少し、彼の事が知りたいかも。
「付き合ってくれる…?」
何気ない会話の中で、一度立ち止まり
「あ…はい…」
気がつけば、そう答えてた。
まだ、恋をしていないのに、
お見合いの様に、私達の恋が始まった。
会ってすぐ。二時間もしないうちに…
ぼんやり、ハルとの出会いを思い、そして鮮明に私の記憶によみがえってくるハルとの会話。
ハルの表情。
ハルの声。しぐさ…
「セブンスターください」
お客さんの声に、ふと我にかえる私。
慌てて対応して…
仕事…やっぱり、手につかない。
夕方になり、バイトが終わる時間。
帳簿をつけて、レジの精算をしていると
「あーゆちゃん」
振り向くと、真理がいた。真理は前の職場でできた親友。
「真理~…」
「仕事、上がりでしょ?ご飯、食べにいこうよ」
昨日、泣きながら真理に電話した。
心配して、会いに来てくれたんだと思うと、また涙ぐんでしまった。
いつものファミレスで、真理と過ごす。
「で…別れちゃた理由は?昨日の電話じゃ、わかんない」
昨日は、泣き崩れてベッドの中から思わず真理に電話した。心配してくれている真理の優しさに、また涙がこぼれてしまう。
「私も、なんでかわかんないんだよね…」
そううつむく私に、苦笑いした真理。
「ま、いいや。食べよ」
真理に別れた話をすると、やっぱり昨日の事は現実なんだと再確認してしまう。
「…この前、ハルくんの部屋に行った時、口紅がついた煙草があったっていってたじゃん。あれ…?」
胸が苦しくなり、手が少し震える。
「まぁ。たぶん。…というか、絶対」
「絶対?決定的ななんかがあったんだ…」
真理の言葉の返しが早すぎて、ぼっとしてしまう。
そうして私は、真理に少しずつ昨日の事、今までの事、話し始めた。
もうずいぶん前に、ハルの部屋の鍵を開けて入ったら、女物のロングブーツがあって…ハルが慌てて玄関に来たんだ。
私は、突然の事でどうしたらいいかわかんなくて
そうしたら、ハルがあわてた様子で
「今日は帰って。妹、来てるから」
って中に入れてくれなかった。妹…?妹でなんで?って思うでしょ?
口紅の煙草の事は、友達の彼女のものって言ってたけど、たぶん違うと思う…
…そう話す私の前で、うん、うんってうなずいて聞いてくれた真理…