小さな二人がけテーブルに、向かい合う二人。
やっぱり、緊張する。
「あの子、恵美ちゃんて言うんだ。あんま、知らなくて」
は…?何、親しい関係じゃないんだー
早く、帰りたい。私と彼、全然合わないよ…
「恵美ちゃん、中学の時の先輩って言ってたから、親しいかと思ってたんだけど」
私が言うと
「ダチの元カノ。あんま、知らない」
そんな風に、話してくれた。
何話せば…少し黙った私に
「おとなしいな。俺も無口な方だから、楽しくなかったらごめん」
そう言って、その後は二人、店に流れてきた曲の話とか、好きなミュージシャンの話とか、ぎこちなく話した。
意外に、普通で怖い人じゃないかも。
それから、飲み物も無くなって喫茶店を出た二人。
もう、これで別れるのかな。そう思ってた私に、
「時間ある?」
って、聞いてきた出会ったばかりのハル。
「うん。少しなら」
私が答えたけど、その後…二人、話すことも見当たらず少し気まずくなる。少しして、彼はいきなり何処かに電話をかけた。
そうして、なぜか現れた彼の友達。
茶色のサングラス…?なぜかピンクの原付に乗って。
こわっ…ハルに負けないくらいの
おっさん系ヤンキーくん。
「ハルの彼女、かわいいじゃん」
まさかの発言。えー…ってびっくりしてたら
「まだ。多分、夜には付き合ってるかも」
彼も、そんな風に話してる。
な…何?
私の横で、知らない話題で盛り上がってる二人。
ハル…って言う人、よく喋るし、声もおっきいじゃん。
さっきの無口と、全然ちがうよ。
で、なんで私、ここにいるの?
初対面の、しかもヤンキーくん二人と一緒に。
い…居づらい。私みたいなのが二人と合わない。
「あの…私、帰ろうかな」
そう、言ってみた。
「ごめん。ごめん。彼女さん。」
サングラスヤンキーくんが答えた。
「俺、コイツに借りた原チャリ、返しにきただけだから」
「いえ。私、帰るからゆっくり話しててください」
そう、言うとサングラスヤンキーくんが、彼の腕を叩き
「ハル、もう失恋?可哀想…。早く、気持ち伝えてみ」
そう言って、手をふって消えていった。
何…?また、二人。
わけがわからなく、どうしようと思っていたら
「ごめん。変なの来てびっくりした?…少し、歩かない?まだ、ちょっと話がしたい」
そう言われて、え…どうしよう。
「…じゃあ、少しだけ」
そういいながら、私は二人になれた事が
少し嬉しかった。
「声…尾崎豊に似てるね」
私は尾崎のファン。だから、目の前の彼の声がすごく格好いいと思った。
「えー。言われたことない」
そんな会話から始まって、後は自然に自分の事を話し始めた。
本当はすごく緊張してて、思わず友達に電話しちゃったことも話してくれた。
歩くのがはやい。
背も高い。
声が素敵…。
何故か、どきどきした。もう少し、彼の事が知りたいかも。
「付き合ってくれる…?」
何気ない会話の中で、一度立ち止まり
「あ…はい…」
気がつけば、そう答えてた。
まだ、恋をしていないのに、
お見合いの様に、私達の恋が始まった。
会ってすぐ。二時間もしないうちに…
ぼんやり、ハルとの出会いを思い、そして鮮明に私の記憶によみがえってくるハルとの会話。
ハルの表情。
ハルの声。しぐさ…
「セブンスターください」
お客さんの声に、ふと我にかえる私。
慌てて対応して…
仕事…やっぱり、手につかない。
夕方になり、バイトが終わる時間。
帳簿をつけて、レジの精算をしていると
「あーゆちゃん」
振り向くと、真理がいた。真理は前の職場でできた親友。
「真理~…」
「仕事、上がりでしょ?ご飯、食べにいこうよ」
昨日、泣きながら真理に電話した。
心配して、会いに来てくれたんだと思うと、また涙ぐんでしまった。