ハルと初めて会ったのは、私が高校一年。
ハルが三年生の秋だった。
私立の女子校に通っていた私。
子供の頃から、決して成績が良くなかった私は、公立高校に通うことが叶わずお金のかかる私立高校に進学した。
裕福ではなかった家庭。母は一日、食品工場のパートに出て、私の学費のために働いてくれていた。
私が入学して、一ヶ月。
昼休みに、廊下で友達とわいわい話していた時に、担任の女教師が早歩きでやって来て、私の肩に手を触れた。
びっくりして、振り返るとこう告げられた。
「お母さんが職場で突然倒られて、病院に運ばれたそうよ。早く用意して、今日は早退しなさい。」
突然の事に何がなんだかわからず、私は急いで教えらた病院まで急いだ。
「行ってらっしゃい」
今朝、そう言っていつもと同じようにお弁当を持たせてくれた母が倒れた。
そういえば今日は、私の奨学金の事で学校に来るって行ってた。仕事、休まないで、途中抜けて来てくれるつもりだったんだ。
母はきっと焦ってたんだ。
高血圧で、今朝、薬を飲み忘れた母は…
職場で、突然、脳内出血を起こし
意識不明に…なった。
私が病院についた時には、もう手術が始まっていて、すでに待合室には、父と姉が来ていた。
母の無事をただ家族で願った。
何時間もの手術が終わり、手術室から出てきた母は、頭を丸坊主に刈られて
顔色が全く無かった。
手術は、一応成功したらしいが、
記憶障害など目が覚めないとわからないと
主治医から告げらた。
また、右の脳で出血したため
左半身不随の可能性は高いと…
家族みんなが、悲しみに暮れた。
私の学費のために、母は無理をして倒れた。
そう思った。
私のために母は、40代の若さで
寝たきりの病院生活になってしまった。
私の、せい。
家族の誰もそう口にしないけど、私は家族のみんなから責められている。
そんな気がした。
私は…いつも、罪悪感で一杯だった。
私がお金のかかる学校に進学さえしなければ
母は無理をすることもしないで済んだのに…
私が…悪いんだ。そう自分を責めた。
母が入院して半年が過ぎ、秋になった。
意識が覚めてしばらく、母は家族の事がわからなくなっていた。脳を損傷しているから仕方ない。
でも、つらかった…
病院にお見舞いに行くと、子供の私の事もわからず
「どなたですか…?」
と言われた時は、かなりきつかった。
でも、半年、時は過ぎ…
ようやく母は家族の事を思い出してくれたんだ。
「あゆ、いつも来てくれてありがとう」
って。
涙が出るほど、嬉しくて
安心した。母の手の温もりにも。
半年がたち、私の気持ちにも少し安らぎが戻ってきた。
女子校の休み時間は、男子の話ばかりで盛り上がる。やっぱり、学校に男子がいないのは物足りない。
「彼氏、欲しいなぁ」
そんな話ばかりで盛り上がる。16才。そんな年頃。
「あゆちゃんは、彼氏がいていいなぁ」
友達から、そう言われて思い出す。
「そう言えば、みーくんとはもう、自然消滅」
母の事があったから、あんまり考えないで済んでいたけど、私は失恋してたんだ。
中学3年の時、私は半年くらい片思いの同級生がいて、誕生日やクリスマス、バレンタインとプレゼント攻撃をして彼の気をひこうとしてた。
好きになった理由は、見た目がかっこよくお洒落な感じの男子だったから。
恋に恋してた。この人にしようと好きになった感じ。
苦しいくらい、愛おしいとかそんな感じではない。
彼氏がほしいから、好きになった人。
手作りのプレゼントにも反応なく、卒業式を迎えた。
あきらめてた私の片思い。
そんな片思いの彼に私は、手作りクッキーを別れの記念に渡そうと、体育館に彼を呼び出した。
三宅だから、みーくんと呼ばれてた人気者の彼。
「みーくん。今まで、プレゼントとか受け取ってくれてありがとう。迷惑かもしれないけど、昨日作ったんだ」
みーくんの手に渡した、プレゼント。
こうして終わらせようとした私の片思い。
「…ありがとう」
あきらめてた彼から、聞いた言葉。
「俺と…付き合ってくれますか」
幼い私の、初めての彼氏になってくれた、みーくん。