「なんで?会えなくなったのに、ハルの声は毎日聞きたい。そんなの絶対、不安になる。1分でもいいから…かけてきて」


私は、そう口にして涙がこぼれた。


「わかるけど、もうお互いわかりあってんだし、毎日する必要ないだろ。…俺も仕事で疲れてるし、なんも考えないでゆっくりしたい日もある」


「嫌だ。それだけは。ハル」

わがままなのはわかってる。でも、今まで毎日だったのに急に週に二、三回なんて…さみしすぎるよ。


「ごめん。そうさせて。あゆと別れるわけじゃなし、電話が毎日じゃなくても、全然問題ないだろ」


ハルがため息をついた声が聞こえた。
ハルの表情を想像すると、私は受け入れるしかない。


「…わかった。我慢する」



涙がとまらなった。
思わず鼻をすすってしまう。


そう答えてしまって、これからの事が、どんどん不安になる。




「泣かなくてもいいじゃん」

ハルは困っている様子は、声を聞くとわかる。



私は、ハルの事がこんなに好き。
ハルを困らせたくない。



私が日曜日休みだったら、いつまでも

ハルは、私のそばにいてくれたのかな…







私の働いているスーパーは、木曜が定休日だった。
どこに行くのも空いていて、ゆっくり買い物したりお茶したりする時間があるのは良かったけど、いつも行動は一人。


同期入社の同じ歳の真理の用事がない時は、一緒にご飯を食べに行ったりした。
真理はまだ、付き合っている人はいなかったけど、片思いの人がいて、恋愛の話ばかりでふたり盛り上がった。


真理には、一度、入社してまもなく、ハルの友達のカッちゃんを紹介したことがあった。
残念なことに紹介だけで終わり、交際には至らなかったんだけど、それをきっかけに真理とハルも親しい仲になった。


真理は、私の一番信頼できる親友。







「なんかもう…自然消滅にされるのかな」

私はそう口にして、改めて不安な気持ちになる。




「そんな事ないよー。ハルくん、あゆちゃんにベタぼれじゃん。離れてても、大丈夫って安心してるだけじゃない?」

真理に励まされると、少しだけ気が安らぐ。でも、やっぱりハルは…私の事、冷めちゃったんじゃないかと不安が大きくなっていく。



「はっきり言って、もうあんな事もしばらくないんだ…」

私が恥ずかしくて遠回しに言った。本当に、もう二ヶ月くらいないかも…


「…それは、不安かもね」

真理がうなずき、二人でため息をついて、顔を見合わせて苦笑いした。


愛されている実感て、抱かれてる時に一番に感じるもの。
もう求められなくなったら、やっぱり駄目になっちゃったのかなって感じた。






「私、思うんだけどさ、一緒に住んじゃえばいいんじゃない?私の友達も、一緒に住んでる子いるよ。やっぱり、お互いにそれぞれに時間つくるのは難しいからって」


「私も…一緒に住みたいんだ。一度、ハルに話したことあるんだけど、全然相手にしてくれなかったんだ」


真理はそうすると、困ったなぁって感じでテーブルに膝をついた。

「ハルくん…本当に浮気してんのかな」


真理にそう言われて、私は

「私がまだ19だから駄目なんだって」


弁解する私が…惨めだった。強がり。そのもの。





「ハルは18で、家を出たのにね…。ハルも…って私が言ったら、今まで親の金でメシ食ってきたんだから、少しは家にお金でも入れて、親孝行しろだって」



真理はふーんて感じで答えた。

「ちゃんと、あゆちゃんの事考えてるじゃん。大丈夫だよ。そう言ってくれてるなら、ハルくんとあゆちゃん」


「…そうかな。だと、いいんだけど」


ハルがそんなふうに、私に話した時は私に興味がないからだと思った。でも、真理にそんなふうに言われて、私はその時には考えなかった事を思い出す。







ハルからは、お父さんと合わないから喧嘩して家を出たって聞いた。


でも、私に親孝行しろみたいな事を言うのは、家を出た事、後悔してるのかなって思った。


家を出て一年。一度も家に帰ることもなく、連絡もしていないと言ってた。お父さんの事…考えているハルを思うと、胸が痛くなった。


いつか…ハルが家を出たのは、私がわがままを言ってハルの家に夜中にこっそり行ってた事が、喧嘩の発端だと…後からハルの友達から聞いた。


ハルが、親と縁を切ったって固い表情で言った。


私のせいだったんだ。ハル…ごめんね…





ハルと私は、周りの人誰もにうらやましく思われてると、自分自身も自信があった。三年も一緒にいて、まさか裏切られるなんて思った事もなかった。


だから、ハルが急に冷たくなった事に不安な気持ち以上に違和感を感じて、ただ、ただ、私は私の思い込みだと信じたかった。


私とハルは、絶対に別れたりしない。


私とハルは、運命で結ばれてるんだから。



強がりでも、そう信じたい。









高校の卒業式には、花束を持って迎えに来てくれた。ホワイトデーには、私の誕生石のルビーの指輪を買ってくれた。本当に嬉しくて



「これって婚約指輪だよねぇ?」

って、ハルの肩に手をまわして抱きついたら


「これはお返し。婚約指輪はもっといいの買ってやるから」


って。私がこれでいいって言ったら、駄目って笑った。


大好きなハルの声が、私の耳に蘇る。









でも、私が就職してからは、「いつ結婚してくれるの?」ってハルの口癖が消えた。ずっと言って欲しかったのに…


だから、今度は私から言うようになった。


「ハル、いつ結婚してくれるの?」って。




ハルは、私の顔も見ずにあきれた顔をする。


「まだ出来るわけないじゃん」



私は、言葉が出なくなる。でもすぐに、なんでもないふりをして、ハルに甘える。



「早く、迎えにきてね」


ハルはまたかと冗談にとる。私は必死で、ハルの気持ちを自分に、向けたかったのかもしれない。