放課後。

最近よく話す同じクラスの男の子にいつものように話しかけられて、話していると。

皆が帰ろうと騒がしい中、誰かが私を呼ぶ声がして。

話していたのをやめて声のした方に振り返ると、そこには去年同じクラスだった友達がいた。

「どうしたの?」

目の前には走って来たのだろう、息を弾ませてる友達。

私がそう聞くと友達は興奮が冷めない様子で
「…先輩が…っ探してるよ…!」

「?…誰?」

部活なんてやってないから知り合いの先輩なんていないのに。

「…えーっと、ん、名前なんだったかな…出てこない…んーー」

わけがわからない。

そう思いながら友達の次の言葉を待つ。

その子は、悩んでいた顔をパッと上げて
「…とにかく!かっこ良くて有名な先輩だよ!」

だから?

「…そうなんだ。」

取り合えず私が相槌を打った所で、一緒に話していた男の子が
「…それでその先輩がなんなんだよ?」
と友達に聞いた。

その友達は何かを思い出したように、
「…そうだ、そうだ、そうだった!」

そこでその子は言葉を切って。

深呼吸をしてから。

「あのね、その先輩が告白したいんだって!」

「「…は?」」

私と、男の子の、声が重なる。

「…誰に?」

やっと絞り出した声に、その子は飽きれた様に
「…あんたに決まってんでしょ?!」
と言った。

「勘違いなんじゃないの?」

私がそう言うと。

「違うって!ちゃんと名前確認したし!」

…私?

告白?

…何で?

関わりも無いのに。

その言葉を頭で繰り返していると、男の子が
「…その先輩の告白、受けんの?」
と聞いてきた。

「…え…いや…」

だって、私には。

私が返事に困っていると、友達が私の肩をバシバシ叩きながら
「ほらっ、来たよ来たよー!」

その声に思わず友達が指差す方向を見る。

するとその先輩と、目があって。

笑ってから、私の苗字を呼んで手を上げた。

どうしよう。

そう思った時。

隣にいた男の子が私の腕を掴もうとしているのが視界の隅にうつって。

「…えっ。」

思わず声を出して、どうすべきか迷ったその時。



その手を伸ばした男の子とは反対方向に引っ張られた。

「…っ?!」

誰か分からない人に、キュッと抱きしめられた。


うそ。


誰かなんて、すぐわかった。

よく知る香りに
よく知る私の腕を掴む、手。

ずっと待ってた。

先輩の話を聞いた時から、ずっと、来て欲しかった。

その人は私の頭の上で、ゆっくりと、でも焦った様な弾んだ息を整えて。

友達か、
一緒に話してた男の子か、
それとも先輩なのか。

誰に対して言ってるのか、よく分からなかったけど。

「…残念。」
と言った。

一緒に話してた男の子はびっくりした様に、
「…何で…お前が…」

「…さぁ?何でだと思う?」

「……」

その男の子が黙ったのを確認してから。

私の手を優しく引っ張って。

「…おいで。」

まっすぐ背筋を伸ばして歩くその人に、私も引っ張られる様について行って。

その途中で先輩が口をポカン、と開けているのが視界に入った。



しばらく二人で歩いて。

もう周りに人はいないのに、その人に立ち止まる気配はない。

「…どこまで、行くの?」

広い背中に、話しかける。

その人は、前を向いたまま。

「どこまで行きたい?」

「…何で来たの?」

「さぁ」

「きっとすごい噂になってるよ…」

「そうだね、どうする?」

打っても響かない会話。

ため息をついて。


握られた、手が熱い。


黙ってその手を見ていると。

その人は、人気の無い裏庭まで行くと立ち止まった。

そして、私の方に向き直る。

私がゆっくり、私のいつもの目線より上にあるその人の顔を見ると、その人は。

「…嫌だった?」

「…え?」

何の事?

「あの場面で連れ去られるの、嫌だった?」

「…別に…」

「だったら良いじゃん。理由なんて、どうでも。」

「…でも。…何であんなに急いで来たの?」

さっきの、荒い息遣いを思い出して。

私の言葉にその人は面白そうに少し笑う。

「…わかってるくせに。」

「…」


その人は。

ゆっくりと。

傾けながら、自分の顔を私の顔に近づける。

その人の目は、いつもの様に自信に溢れてて。

その目を見ない様に、ゆっくりと目を閉じると。

柔らかな声が、脳裏に響く。

「…それは、」



それは。



きっと。