➖10ヶ月後➖

今日でこの学校ともさよならだ。
3年間の半分辛く苦しくて、あとの半分は幸せな学校生活だった。
あの校門をくぐれば終わる。
一歩ずつ歩いて行く。
校門の前で男の子が一人立っている。
両手いっぱいの薔薇を抱えて立っている。
「ねぇ汐梨アレ見て。なんか映画みたいじゃない?」
「本当、あれちょっと恥ずか……。えっ……」
「うん?汐梨どーした?」
「礼央くん。」
「えっ汐梨〜!」
迷わず駆けだす。
礼央くんの前で止まる。
「はい。卒業おめでとう。」
「ありがとう。いつ帰ってきたの?」
薔薇の花束を受け取ると、まさしく映画のヒロイン気分だった。
「今朝日本に帰ってきた。」
「そっか…。」
礼央くんは私と会ったことは憶えてなくて14年振りになるから…あれ、そのわりには普通に会話してるような…。
「やっと気付いたって顔!バステトは元気?」
「えぇぇぇ!なんで????」
「目が覚めたらアメリカの家にいたのに、憶えてた。最初は夢かとも思ったんだけど、遠く離れた日本の理央も同じく記憶があった。汐梨のことも、バステトをことも憶えてたんだ。同じ夢なんて、そんな偶然あるわけないだろ?!」
「でも他の会いに行ったみんなは忘れてたのに。」
「じゃバステトのミスかな。」
そう言って礼央くんは笑った。
「汐梨?」
「はい…」
「確かめていい?」
「なにを……」
言葉の途中でくちびるは塞がれた。
「やっぱりあのキスも夢じゃなかった。」
恥ずかし過ぎる。
顔が熱くて溶けちゃいそうだ。


「汐梨!!この後みんなでカラオケ行くんだけど参加でいいよね?」
後ろからクラスメイトに声を掛けられ我に帰る。
「ごめんっ!無理!」
「えっ聞こえないっ!」
「弟に会いに行くから無理〜!」
「あっそっか。わかった!」
さぁ会いに行こう凪に!
最後の一歩を前に出し歩き出した。