なあ、俺とオマエって親友だよな?ただの幼馴染じゃないよな?
 オマエは、喋りださない俺に話しかけるでもなく、待つでもなく、ふらふら~、ふらふら~、と歩いてやがる。いつもは喋りとおして、ケラケラ笑ってるくせに、たまにこうなんだ。不思議な奴。怖え。
 「なあ、涼」
俺が口火を切る。別に、沈黙が重い、とかじゃない。むしろ、コイツとの沈黙は好きだ。この世界に、二人だけって感じがする。嬉しい。泣きたいくらい。
「なあに?」
気のない返事だ。ほっとする。
「何でもねえ」
「何だよ?バーカ」
俺はムカついて、涼をくすぐってやった。アイツがケラケラ笑う。あー、笑ってる。コイツの笑い声が、俺は好きだ。よーし。今日も一日やってけそう。そう、思えた。
 二人でくすぐりあって、とどめがつかなくなってもなお、続けていると、冷ややかな目をした、夏帆が来た。夏帆も、幼馴染だ。
「何だよ?その目?」
涼が言う。
「いやー、アンタ達、相変わらずバカだなーと思って」
俺たちは、何にも言わなかった。返す言葉がないというよりも、その通りだし、それが嫌じゃなく、なぜか逆に好きでもっというと愛おしくて、言葉にする必要なかった。夏帆は続ける。
「アンタ達、ほんと、子供ね」
「子供じゃない!」
涼の声と重なった。俺たちは笑った。夏帆は「気持ち悪っ」と言って教室のほうに向かった。
「みー。俺たちも行くか?」
「なあ、涼。今年も海行こうね」
「そうだな」
いつも、喋りまくってケラケラ笑ってるくせに、たまにこういうトーンになる。アイツのこと、考えてるんだろうな。玲奈のこと。なあ、オマエ、どんな頭してんだ?「大丈夫か?」とは、とても言えなかった。だってコイツは、心配されることを、極端に嫌う。俺は、コイツに嫌われたくない。けど、それだけなのか?本当にそれだけなのか?アイツのことを、大事にしているからじゃないのか?どうなんだろ?
 そんなことを、バカみたいに真剣に考えていると、涼が普通に言った。
「もう、そんな季節かあ」
良かった。涼の頭はどうなってるんだ?相変わらず、切り替えが早い。
 「教室、行こうぜ」
俺のクラス、中二は全部で12人。全校で20人の小さい村の学校だ。一年は3人で、三年が5人なので、12人でも、十分多いほうだ。
 「みーちゃん、今年海行く?」
隣の夏帆は授業中に、どうでもいいメモを渡してくる。別に、嫌じゃないっていうか、眠いからありがたいのだが、たまには柴咲見習って、謙虚になれよ。柴咲は、ほぼ、生徒会の話しかしない。必要な時しか、話しかけてこない。柴咲は中一で転校してきたから、あんまり慣れてないんだろ。
「ちょっと、みーちゃん。返事しなさいよ」
あっ、やべ。ぼーっとしてた。
「ごめん。何だっけ?」
「みーちゃん。さっきのメモ見ればわかるでしょ?」
「あー、海ね。さっき、涼と話してたところ。今年も行く予定」
「よっしゃあ」
キーンコーンカーンコーン。やった。夏帆と会話してたら、終わった。感謝。  健康給委員長の柴咲が
「みずきくん。この絵書くの、手伝ってくれる?」
と申し訳なさ気に言う。生徒会の仕事だ。俺はちょっとイラっとして
「海、行こーぜ」
と言った。なぜ、こんな言葉がでてきたのか、わからない。
「学校さぼってさ、こう、パーッと、やろうぜ」
柴咲は意外にも、その話にのった。けど、
「私でいいの?」
と言うので、イラついて、軽くパンチを一回くらわすと、すげー笑った。こんな風に笑うんだ。明るく、ケケケと笑った。
 この学校は、人数が少ないので、2年生が会長になることも珍しくないのだ。そして、それを決めるのが、3年生。つまり、柴咲は信頼されている、ということだ。柴咲は、小6の時に転校してきた。だから、あまりクラスで喋らない。なのに、信頼されている。きっと芯が通っているからだろう。3年生も、よく見てるな。夏帆は総務事務局長。アイツは向いていると思う。自分の意見を、ズバっと言う。俺と涼は、自分で選べるから、一番楽そうな健康給食にした。
 また、佐藤先生の授業の時に、夏帆がメモをよこした。
「何か面白いこと言って」
「あ、そういえば、海、柴咲も誘ったから」
「えっいつもの3人じゃねえの?」
夏帆は、女子が嫌いだ。めんどくせーんだよ、女子は。と、いつも言っている。
「でも、柴咲は他の女子とはちがうぜ」
俺が返す。
「女子一人で、特別扱いされたかったのに~」
と、夏帆がふざける。けど、柴咲のこと、追求しないってことは、そんなに嫌じゃないのかも。夏帆も、わかってるのかも。女子だからって、みんな拒否するのがおかしいって。気づいていても、一回演じてしまったことをそう簡単に変えられないのだろう。そういう、頑固な奴だから。
 授業が終わると、夏帆を視聴画室に呼んだ。
「みーちゃん。急に何よ?」
俺は思い切って言った。
「オマエが女嫌いなのって、いじめられたからだろ?」
一度言い出すと、言葉がとまらない。どうしたらいいかわからず、話続けた。
「でもさ、柴咲は別だぜ?小3の時に転校してきたアイツは、オマエを助けようとした。けど、オマエは拒否った。なぜだ?まあ、だいたいわかるけどさ、オマエのことは」
夏帆は言った。
「これ、みーちゃん以外の人に言われたらぶん殴ってたよ」
「何で、俺ならいいの?」
「幼馴染だから」
「じゃあ、涼でもいいの?」
「ダメ。涼にはないものをみーちゃんは持ってる」
えっ、本気か?
「だって、涼は全部持ってる。それに嫉妬してるけど、尊敬してる。俺、アイツいないとダメなんだ」
夏帆を前に、思わず本音が出た。
「それ、逆だと思うよ。あと、いじめのことは、ずっと隠したい過去だったけど、大切な過去だって、今は思える。みーちゃんが、聞いてくれたから。ありがとう」
まくしたてて出て行った。俺は、バイバーイと見送る。
 涼が
「何、女泣かしてんだよ?」
と言った。
「何の話?」
「夏帆だよ。泣かすなよ?」
と、涼はクールに笑った。その姿は大人の男の人だった。