「もしかして友達いないとか?」
『………』
「ねぇ、聞こえてる?」
不意に肩を叩かれた。
『ちょっと、触んないでよ。』
怒って顔を上げた私に、その男はニコッと笑って
「俺、杉崎洋介。よろしくね。」
握手を求めてきた。
怒っていたハズなのに、私はその笑顔にコロッと落ちてしまった。
『園田…沙羅。』
街で声をかけられたって名前なんか教えないのに、洋介には教えていた。
これが私と洋介の出会い。
それからの私達は、屋上でよく話をするようになった。
クラスは違ったけど、唯一この学校で話すのが洋介。
2年になってからはクラスも一緒になって、よく2人で授業をサボったりもしている。
そして現在、私達は3年生になった。
そのまま持ち上がりなのでクラスも一緒。
私達はクラスでちょっと浮いた存在だから、教室に居るより屋上の方が居心地がいい。
屋上に着くなり、私も洋介も大の字になって寝転がる。
『暑いけど、気持ちー。』
太陽が眩しくて目を細めながら真っ青な空を眺めていると、
「沙羅、いつも言ってるけどパンツ見えそう。」
起き上がった洋介が呆れ顔をしている。
『パンツぐらい見せてやる。あんたが私のパンツに飛びついてくるとは思わないから。』
「アハハ、まぁそうだな。お前の見たって欲情しねーわ。」
そうハッキリ言われてしまうと、私の中の小さな乙女心が傷つく。
だけど、私は『そんなの知ってる』と言いたげな顔を洋介に向けた。
私は、洋介への気持ちをずっと隠している。
一瞬で恋に落ちてしまったけど、洋介は私の事を女として見ていない。
仲はいいけど、それはあくまでも友達として。
私が洋介に気持ちがあると知ったら、洋介はきっと今みたいに友達のままではいてくれないと思う。
けれど、私の小さな乙女心は洋介に触れたいと訴えていた…。
「なぁ、沙羅。今日、買い物付き合ってくれねぇ?」
『アイス。』
「はぁっ?」
『アイス買ってくれるならいいよ。』
「ハハ。じゃあアイス買ってやるよ。」
『やった。』
放課後になるのが待ちきれなかった私は、休み時間になると教室に置いたままのカバンを取りに行き洋介と学校をあとにした。
「結局3時間目までしかいなかったじゃん。」
『いいの、いいの。それより何買うの?』
学校を抜け出し、洋介と買い物に来た事に心の中で若干はしゃぎ気味の私。
でも、洋介にさとられないようにいつもと変わらない態度をとる。
「ベビー用品?」
その言葉に、さすがの私も立ち止まってしまう。
『はっ?あんたいつの間に子供なんか…』
「ちげぇよ。姉ちゃんのとこ、昨日産まれたんだ。」
『そうなんだ。おめでとう。』
正直ビックリした。
まさか洋介が私の知らないとこで彼女つくって子供が出来たのかと思った…。
「お前よ、俺に彼女いないの知ってんじゃん。」
私の驚きから安堵の表情に変わったのを見て、洋介がはぁーっとため息をついた。
『知ってるけど…』
それ以上何も言えない私。
そして、お目当てのベビー用品店に入り私達はものすごく居心地の悪い思いをした。
周りは赤ちゃんや小さな子供連れ、または妊婦さんばかり。
なのに、私達は高校の制服。
気のせいだと思うけど、好奇の目にさらされているような…
そんな気がしたので、可愛いピンクのベビー服を買ってすぐにお店を出た。
ちなみに、お姉さんの子供は女の子。
『絶対私達に子供が出来たって目で見られてたよ。』
「制服で来たのがまずかったな。」
『でも、可愛い服買えて良かったじゃん。』
「おお。ありがとな。」
『いいえ。』
そして約束通り、洋介にアイスを買ってもらいベンチに座る。
私はチョコチップ。
洋介はストロベリー。
「沙羅のうまそうだな。一口くれ。」
『えっ。…はい、どうぞ。』
私が差し出すアイスを洋介は自分のスプーンですくって口に入れる。
「うん、うまい。ほい、俺のもやるよ。」
そう言って洋介はアイスをスプーンですくって私の口元に差し出す。
『マジ…?いただきます。』
いわゆる、アーンと食べさせてもらう形になって私はすごく恥ずかしかった。
なのに、洋介は全く気にせず
「うまいだろ?」
って。
『うん、おいしい。』
私1人がドキドキしていた。
「俺、この後姉ちゃんのとこ行くけど沙羅も行くか?」
アイスを食べ終わり、洋介がそんな事を聞いてきた。
『いいの?私が行っても。』
「別に構わないよ。」
『行く。赤ちゃん見たい。』
私は洋介のお姉さんと面識があるわけではない。
でも、せっかく洋介が誘ってくれたし。
お姉さんへのお土産を買い、私達は病院に向かった。
コンコン
「はーい。」
「よっ。」
「洋介。来てくれたんだ。…あら?」
洋介の後ろから入ってきた私にお姉さんの視線がそそがれる。
「同じクラスで唯一の友達。」
『初めまして、園田沙羅です。』
ペコリと頭を下げる私。
「こんにちは。洋介の姉です。」
洋介のお姉さんは、洋介と似て美人さん。
とっても優しい雰囲気の人だった。
『出産、お疲れ様でした。良かったら、これ食べて下さい。』
私は来る前に買ってきたシュークリームの入った箱をお姉さんに差し出す。
「ありがとう。いただきます。」
私とお姉さんがやり取りをしている横で、洋介はスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている赤ちゃんを見ていた。