玄関のドアを開けた瞬間、いい匂いがした。

リビングのテーブルへ料理を運んでいる花に「おかえりなさい」と声をかけられ、思わず、その姿に別れた嫁を重ねてしまった。

「ただいま」

ぎこちなく微笑みながら、俺はすぐに顔を伏せて動揺を隠す。

「どうしたんだ?」

脱いだコートと荷物を部屋に置いてきた俺は、リビングにいる常盤に問いかける。

「あの暴力的な性格、どうにかなんねぇの?」

左の頬に手を当てて、不機嫌そうな表情をしていた彼は、あごで花をさし、深いため息をついた。