私たちは2年生になった。
諒生とはあの電話の日以来、
話すことはなかった。

「またサワと同じクラスだって。」
「名前が隣同士だからわかりやすいよね。」

佐羽湊世と染岡諒生の名前が並んでいる。
1年の頃はこんなことどうでもよかったのに。

諒生は、あの時電話で言っていた好きな人に想いを伝える事が出来たのかな。
…晴れて結ばれちゃったのかな。

「じゃあ俺とサワさ、また席前後だ。」
「……そっか。」
「よろしく。」
「…うん。」
「へぇ、初瀬とも同じクラスなんだ。」
「……初瀬?」

初瀬稔?なんて読むの。

「同じテニス部でさ。」
「かっこいいの?」
「え、うん、かっこいいんじゃない?」
「…へぇ……。」

どんな人なんだろう。
初瀬くんって。

「俺たち本当に2年になったんだね。」
「実感湧かない。」
「だよね。後輩が出来たって感じしないもん。」
「それわかる。」
「あ、初瀬だ。」
「初瀬く……ん?」

「おっす、染岡。」
「……女の子?」
「かっこいいでしょ?」
「初瀬稔(ハツセナル)って言います。
よろしくね。」
「……あ、佐羽湊世って言います。よろしく…な、稔ちゃん?」
「あ、稔でいいよ。…佐羽?」
「サワだよ、初瀬。」
「あー!サワちゃん!」
「いや、佐羽なんだけど…。」
「じゃあ染岡が間違ってるのか。」
「そうなの。でも出会った時からそう呼ばれてるから…ね…。」
「そっかそっか。いやぁ、佐羽ちゃんとクラス一緒になれて良かったー!やっと見れたし!」
「……なんで知ってるの…?」
「あ、染岡から話聞いてて。」
「諒生から…?」

いつの間にかだけど、この時にはもう既に諒生のことを下の名前で呼ぶようになっていた。

「あ、これ言ってよかったのかな。」
「何言ってくれてんのお前。」
「ですよね、ごめんね染岡くん。」
「絶対許さない。もうお前次の時間の準備行ってこいよ。」
「…はいはい!じゃあまたね、佐羽ちゃん。」

手をぶんぶんっと勢いよく振る稔。

「あ、うん!」

つられて私も手を振った。
諒生はぷくっと頬っぺを膨らませていた。
あの時の諒生は凄く可愛かった。

「ごめんね、サワ。あいつ意味わかんないことばっか言うんだよね。」
「う、うん。別にいいよ。気にしてないし。」
「…………そっか。」
「…次の時間って何だっけ?」
「部活紹介。」
「お、諒生出番?」
「俺、こう見えて時期部長だからね。」
「え!凄!」
「サワのおかげだって。」
「……まだ覚えてんの。」
「当たり前。俺、準備手伝って来なきゃだから行くわ。」
「うん、頑張って!」
「見ててね。」
「…………当たり前。」

本当に諒生がテニス部に入って
正解だったのかな。
まさか諒生が時期部長になるなんて
思ってもいなかったんだけど。
『見ててね。』ってそれ、
好きな人に言う言葉だと思うんだけどな…。
でも普通に友達にも言うか。

「楡也行っちゃうのぉ?」
「ごめんね〜。バスケ部だから行かなくちゃ。」
「真子も行く〜!」
「それはだーめ。大人しく俺のことだけを見といてよ。」

ほら、中にはああいう奴もいるんだから。
すっごく苦手、ああいうの。

「深善置いていこうぜ。」

ほら、他のクラスメイト(男子)からも評判悪し。

なんでこんな男と同じクラスになってしまったんだろう。

深善楡也(ミヨシユヤ)だっけ
一生関わりたくない。