「最低。」
「なにが?」
「『名前を覚えていてくれただけでも嬉しい。』だって。覚えていたのは私なんですけど。」
「俺も覚えたもんね。」
「…あぁ、そうですか。」
「まあいいじゃん。」
「…そうだね。」

笑いあう私たち。
放課後、っていうのもあって外からは
部活動に励む生徒たちの声が聞こえた。
諒生の顔が外の方に向く。

「……何部に入るの?」
「テニス部、にしようかなって。」
「へー!かっこいい!」
「そう?バスケ部と悩んでたんだけど…サワがかっこいいって言うならテニス部にしようかな。中学の時もテニス部だったし。」

諒生は無意識で言ってたのかもしれないけど、私は普通に意識してしまった。
『サワがかっこいいって言うなら』
って、ドキドキせざるおえない。
でもなんであの時、『かっこいい』って
言ってしまったんだろうって。
諒生がバスケ部に入っていたら、
運命は変わっていたはず。
今では後悔しかなかった。

「サワは何部にするの?」

未来が分からない私たちは笑って
そのまま話を続けちゃうんだよ。
未来が見えたらどんなに楽だったか。

数日後、諒生はテニス部に入った。
私はやりたいと思えることがなくって
行かなくて済む映画鑑賞部に入った。

映画鑑賞部に入ったことを
諒生に伝えると、諒生は笑った。

「サワとあんま話せなくなるんだね。」

なんて意味深なことを言いながら。
諒生には未来が視えていたのかもなー
なんて今思う。
この時の私はまだ何もわかっていなかった。

「同じクラスなのにそれはないでしょ。」

「…だよね。」

もうすぐで私たちは諒生が言った通りになるんだ。

授業中は変わらなかった。
けど、放課後は諒生が部活に行く為
「じゃあね。」くらいで会話終了。
休み時間は諒生が部活の集会で
教室にいる時間が減り会話をする
余裕もなくなった。

そして席替えも行われた。
諒生は窓際の席、私は廊下側の席で
諒生の席には前よりも人が集まるようになっていて、一切連絡がとれない関係にまで陥っていた。

私も私でその時に席で近くなった
女の子たちと仲良くなって、いつメンができた。
諒生との間に関係なんてなくなっていた。
“ただのクラスメイト”に戻っていた。
LINEもお互いしてくることはなかった。
お互い、気まずかったんだよね。
諒生はたくさんの人と絡めるようになっていたから、私も遠慮していた。
クラスのグループによく諒生は出現していた。
クラスのみんなが諒生のことを求めるから。
諒生はクラスのみんなから見ても必要不可欠な存在だった。

私が諒生の邪魔をしていたんだって
その時に分かってしまったんだ。

いつメンのLINEグループでも、
諒生の話が出てくる。
『私たちが近づけるわけないよ』
って。
でも私は近くにいた。
諒生の近くにいれた。
それは諒生が優しかったから。
ていうか、いつメンにも諒生に想いを寄せている人がいたんだってこの時知ったんだよね。
みんなが『協力する』って言う中、
1人だけ『それは無理』って言うのも、
嫌な目にあうかなって思ったから
私もつい『協力する』って言ってしまったんだ。
その時、友達に言われたのは

『湊世は染岡くんと仲良かったから凄く助かる!』

だった。

“仲良かった”

過去形なだけで胸が傷んだ。
あと、みんなが
私たちのことをちゃんと見てたんだって
そう思うと私は影でどのくらいの悪口を叩かれていたのかな。
って不安に襲われた。

そんなことを考えている時間を、
もう少し動く時間にしとけばよかった。

そう思っても、
“時間”を巻き戻すことは当然出来ない。