「なんでそんなに冷たいの?」
「………人見知りなだけ。」
「…そんなわけ…休み時間になるとすっごい人集りになるし。」
「…………俺は喋ってないけど。」
「…え。」
「でも声かけてくれるの、有難いと思ってる。…俺人見知りだから、自分から声かけられないし。特に女子なんかはそう。全然打ち解けられないんだよね。」
「……意外。」
「どんなイメージついちゃってんの?」
「あ、あぁ…ごめんごめん。気にしないで。」
「………笑ったでしょ、今完全に笑ったよね。」

意外だった。本人曰く、
プリントを渡したときは人見知り全開で、携帯ゲームに自分の世界に没頭していたんだとか。
………なるほど。
でもこの日から諒生が携帯を触っている回数が減ったような気がする。
携帯を触る回数よりも私に話しかけてくる回数の方が遥かに増えた。

「ねえ、サワ。」
「なに。」

諒生は自然と私のことをサワって呼ぶようになっていた。
いつから、かわからない。
気づいたらそうなってた。

「あの席の女子…茶髪で眉毛無いの…名前なんだっけ。」
「…架南ちゃんだよ。」
「…………誰。」
「あの席の女の子…。」
「サワ、仲良い?」
「……あんま関わったことないかも。」
「俺、あの子に告白されたんだよね。喋ったことないんだけど。」
「……付き合うの?」
「どんな子か知らない?」
「…え、知らないよ。あんま関わったことないし。あ、でも声が大きいから聞き取りやすいよね。」
「……へえ。じゃあいつも俺の前で騒いでたの、架南ちゃんか。」
「………え、本当に喋ってないの?」
「うん、ガツガツくる人苦手なの俺。」
「……人見知りだから?」
「そー、わかってるー。」
「………。」

こんな諒生でも、女子たちにモテモテなのはこの立派な顔のおかげなのかな…。
諒生本人は自分がモテモテなのも顔立ちが良いのも自覚無だったけど。
諒生にそんな自覚があったら、
私と居てくれることはなかったと思う。
……私、この時は諒生に興味なんて全然なかった。
いつから諒生のことを意識するようになっていたんだろう。
いつから諒生のことを“染岡くん”じゃなく“諒生”って呼ぶようになっていたんだろう。
いつから恋愛の話はタブーになったんだろう。
いつから諒生との距離が開いてしまったんだろう。
全部が全部、
気付いたらそうなっていたんだ。
けど、この時(高校1年生)は
“自然の恐ろしさ”というものに
気付くことは出来なかった。

結局、諒生は放課後。
教室の近くにある階段に架南ちゃんを呼び出し、架南ちゃんに告白のことを謝った。
でも架南ちゃんは優しくて、
『名前を覚えてくれただけでも嬉しい。』
と言ってくれたらしい。
名前を覚えていたのは諒生ではなく、
この私なのに。
そうとも知らない架南ちゃんはルンルンとしながら諒生の目の前から去って行ったのだ。