泣いちゃだめだって、笑わなきゃ。

そう自分に言い聞かせた。

だって好きな人の幸せは
私の幸せでもあるんだから。

まだ告白もしていないのに、
失恋しちゃいました。

佐羽湊世(サバミヨ)。
でも君だけは、サワって呼んでくる。
どうやら読み方を間違えているらしい。
でも君は天然で、
間違っていることにすら気付いていない。

その君っていうのが、
染岡諒生(ソメオカマサキ)。
私のことを無意識で振った私の好き、
…だった人。
ううん、今でも好きだ。

諒生と私は高校入学したての頃に
席が前後で仲良くなった。
最初の諒生の印象はすっごく悪くて、
絶対に話したくない相手だった。
だってプリントを配っても
諒生は真顔で先生にばれまいとこっそり机の下で携帯なんかしちゃっていて。

プリントぐらい受け取ってよ。

って思ったり、

態度悪いな。

って思う日もしばしば。

とにかく諒生には悪い印象がつきまくってた。
でも諒生は何故か女子、男子問わず人気があった。

「染岡くん彼氏にしたらさ〜!」
「あたし狙おうかな〜?」
「無理だって〜!」
って諒生に聞こえるぐらい大声で騒ぐギャルもたくさんいたし、
「染岡と友達になりてぇーなぁ。」
「あれ、イケメンがいる?!どーこだ??こーこだっ!!染岡ぁ!!」
って諒生に聞こえるぐらい大声で騒ぐチャラ男もたくさんいた。

諒生は黒髪で清潔感がバリバリなのに、
何故かギャルやチャラ男からの人気が高かった。

なのに諒生の高校入っての1番の友達が私でよかったのかな。
…今の感情ならずっと嫌いのままで居たかったかも。

私と諒生が仲良くなったのは入学して初めて日直を任された時。
正直、諒生と日直だなんて断固お断りだった。
でも恐る恐る声をかけてみた。
休み時間は人が集まるから授業中に。

「ねぇ、染岡くん。」
「………なに?サワさん。」
「……さわ?って私のこと?」
「………だって、サワさんじゃん。」

これが私たちの初めてした会話。
諒生から見た私は
どんな印象がついていたんだろう。

「染岡くんの名前、書けないから書いてくれます?」

わかりやすいように名前の書く欄を
指差してあげた。

「……………あー、わかった。」

染岡くんは名前を書いてくれた。
けど、染岡くんの字はすっごく汚くて誰も読めなかった。

「………何て書いてるの?」
「俺の名前。」
「……リョウ?」
「マサキ。…先日自己紹介したばっかだよね。」
「…そう…だけど、それを言うなら染岡くんにも言える。私の苗字、サワじゃなくてサバなのね。」
「うん、わかったよ。サワさん。」
「わかってないよ、染岡くん
「要件はそれだけ?」
「…え?う、うん。」
「そっ。」

やっぱり染岡くんに対して
どうもいい印象がつくわけがなかった。