もちろんお母さんの気持ちは分かる。
一人暮らしを始めた娘が夏休みなのに連絡も寄越さないので心配しているのだろう。

課題があるのは嘘ではないけど、お盆まで帰らずにやらないといけない量ではない。
もうほとんど終わっていて暇を持て余している。

それでも帰省しないのは心のどこかで優馬が会おうと連絡してくるのを期待しているから。
私から誘わないと向こうからはないと分かっていても期待してしまう。

『ちょっと聞いてるの?紗綾!』


電話口で呼びかけられてまだ通話中だったのを思い出す。

「聞いてるよ。じゃあもう少し早く帰るから。いつ帰るか決めたら連絡する。じゃあね。」

お母さんの返事も聞かずに電話を切る。
長年の経験上こっちから切った方が楽だと分かっている。