どうしても受け取るつもりはないらしく、差し出したお金を私の手ごと握る。
触れた手が熱く感じる。
たいして変わらない温度だと思うのに、じっとりと熱くなってきている。
恥ずかしくなって私はお金を渡すのを諦めて、手を離す。
私がお金をしまうのを見届けて、ゆっくりと歩き出した。
「紗綾はこっちだろ?家まで送る。」
「いいよ。優馬のほうが先に電車降りるじゃん。」
「そんなの気にすんなよ。何時だと思ってんの?こんな時間に女1人で歩くとか危険すぎ。」
まだ9時なのにそんなふうに言ってもらえると嬉しいと素直に思った。
私は可愛げがないし、容姿もずば抜けていいわけじゃないので心配してくれるような男の人は父しかいなかった。
大抵がお前なら大丈夫だろと笑っていたので、少し不機嫌な顔で危ないと言われるのは照れるし嬉しい。
ありがとと小さく呟くと、頭にぽんっと手を乗せて満足気に笑ってくれた。