「おい、七瀬……早く席につけ」




教室に戻った時には既に午後の授業は始まっていた。

ドアを開ければ注目を集めるし、当然先生にも怒られるだろうなと思ってた。


けど今の私は自分で思うよりもずっと具合が悪そうに見えるらしく、先生は席に着くことを促す程度だった。




「七瀬 美沙、遅刻だぞー?」


「……うるさい、天谷」




席について、教科書を探そうと引き出しの中を覗けば、後ろから私をからかう声が聞こえた。




「おー、怖い怖い。少しは佐和ちゃんみたいに女らしくすればいいのに」




こいつは天谷 陽一(あまや よういち)。

中学から一緒の天谷は、お姉ちゃんの存在を知っていて、やたら私とお姉ちゃんを比べたがる。

似てるのは顔だけで、運動も勉強も、全部少しだけ敵わない。


美沙は何に関しても普通ね、なんて親に何度言われたか。


もう、うんざりなの。

頑張ってないわけじゃない、ただ、どうやったってダメなの。


恋愛ですら、私はあの人に敵わない。