今宵は新月だ



鎮守の森は昼とは全く違う姿の森が存在しており、不気味なほどに静まり返っている

夜だから仕方ないのかもしれないが、どうにもこの雰囲気には慣れない


草木が風に揺れて少し音を立てるだけでも心臓に悪いのに、妖退散だなんて・・・・・・


人知れず少女は溜息を吐いた



安倍修羅 

14歳


その名前は一見、男のようだが彼女はれっきとした女ある

ついでに言うとビビりだ



今も足元を掠めた獣(おそらくは栗鼠)で危うく叫びそうになっている



『クソ親父・・・・・・いつか絶対にぶん殴る』


少女は自分をこんなところに放り出した父親の顔を思い浮かべては唇を噛んだ

脳内で蹴る殴るの暴行を加えるが、どうにも気分はおさまらない


“修行”という名の罰は少女には憂鬱すぎた




安倍家は代々伝わる妖退治の一家だ




一家の歴史は長いらしく、天皇家及び将軍家からも実績は買われている


修羅はその末裔として日々修行に勤しんでいた



それはいいのだ、別に


だが、今日の夕方の父親の諸行を思い出すとどうにも不愉快だ





―――――事の始まりは4時間前に遡る