「いけっ優衣!」

「うわっ!」


あまりに急な事で動揺していたところを、
背後からユカリにトン!と背中を押され、ベンチから体ごと放り出される。


前のめりになった足でなんとか持ちこたえ、立ち上がって顔を見上げれば


私の目の前に立っていたのは、やっぱり紛れもなく…あの広瀬先輩で。


「……っど、どうぞ……」

「……」


戸惑いながらも抱えていたボールを先輩の前に差し出す。


…この時、手も声も震えてしまって、絶対おかしい人に見えていたと思う。


でもそんな私を、広瀬先輩はまっすぐな目で見ていたかと思うと、



「……どうも」



たった一言。


交わせた会話は、たった一言。
それだけだったけど、


先輩は直接私からボールを受け取ってくれたんだ。