…――気がつくと、私は隼人にしがみついていた。
間一髪、私の体を全身で受け止めてくれた隼人。
幸い段差もそれほど高くなかったおかげもあって、どこも痛くない。
それでも突然落ちたショックと驚きで心拍数が一気に上がる中、耳元で隼人の掠れた声がする。
「優衣、大丈夫か?」
「…っう、うん」
「ケガとかしてね…?」
隼人の問いかけにも、私は顔を真っ赤にしたままコク…と頷き返す。
それを見て腕の力を緩めた様子の隼人が、私を床に片足で立たせてくれると、心底ホッとしたように笑ったんだ。
「良かった」
約一週間ぶりに見れたその笑顔。
つい嬉しく思ってしまった半面、胸の奥が苦しくなった。
だって今この優しさも全部……
「…た、助けてくれてありがと隼人。でも、あのね…これからは隼人の助けを借りなくても、自分でちゃんとするから…」
「……」
「私に、優しくしないで…」
意を決してこの言葉を口にした時、私は隼人の目をまっすぐ見られなかった。
とっさに俯いて、ギュッと唇を固く結ぶ。
…こんなの、本心じゃない。
別れても変わらず隼人が私を気にかけてくれて凄く嬉しかったし、本当はこれからも隼人の優しさに甘えたい。
けどそれじゃ何も変わらないから…
今すぐにでも否定したい気持ちを必死にこらえジッと返事を待つ私に、隼人がポツリと口を開いた。
「そっか…分かった。俺のこの心配が優衣の迷惑になるんだったら、もうやめる」
「……」
「つうか、俺らもう付き合ってるわけじゃねーもんな…」
苦笑いしたようにそう言って、最後に隼人は落ちてしまった松葉杖とプリントを拾い上げると、「はい」と手渡してくれた。
そしてすぐさま二段抜かしで足早に階段を駆け昇っていく。
あっ……
この瞬間、思わず後ろを振り返って引き止めようとしたものの、
手を開いて伸ばした先に隼人の姿はもうなくて。
私は一人その場に立ち尽くした。
「……」