一瞬、何が起こったのか分からなくて。
ひとり茫然とする私に、藤原さんが声を高くして笑いだす。
「あ、ごめーん。つい手が滑っちゃった。でもわざとじゃないんだよ?」
「……」
「せっかく隼人に見せようとして張り切って浴衣まで着てきたのにこれじゃ残念だね~。早く落とさないとシミになるよ?」
とっさに足元を見ると、地面には落ちて割れた瓶。
反動で中のジュースが飛び散ったのか、浴衣の裾がびしょ濡れになっていた。
「あれ~?そういえば栗原さん、血出てない?大丈夫?」
「うっわ、きたなーい」
今ので瓶の破片が当たったのだろうか、ズキッと突き刺すような痛みと同時に、足にはうっすらと血が滲み出していた。
そんな私を目の当たりにして、側にいた友人たち二人もクスクスと笑い始める。
でもそんなこと、今はどうでも良かった。
…どうしよう。
そんなことより
浴衣が…
「あはは見て。超ウケんだけど」
「栗原さん、ばいばーい」
「もう帰ってくんじゃねーよ」
まるで同じ人とは思えないような言葉を背に、私はここから走り出していた。