1時間後、3年生を送る卒業式は滞りなく行われていった。


体育館の前方では、胸に赤い花章をつけて着席する卒業生。

その左右を学校の先生や来賓の人が座っていて
私たち在校生は後方の席からおとなしく見ていた。



開会式の挨拶や校歌斉唱も終わって、今は卒業証書授与。


校長先生に名前を呼ばれ、壇上へと上がっていく加奈子さん。


…まだ1年だった頃、部活にいない広瀬先輩を探しに行った私は、この時偶然ぶつかった加奈子さんと鉢合わせしてしまった事があった。


あの時見た加奈子さんは確かに泣いていて、恐らく直前まで一緒に居たであろう広瀬先輩と何かあったのだと思う。

でも、たった今受け取ったばかりの証書を丸め、こちらへ振り向いて見せたときの加奈子さんは、どこか晴れ晴れとした眼差しをしていて…

今まで私が勝手にも感じていた、儚くてほっとけなくもとれるような加奈子さんの印象はもう感じられなかった。

まるで、これから先の未来に期待を馳せているような……。



逆に広瀬先輩は、どこか虚ろな瞳をしていたような気がする。

サッカーの道をやめてでも志願した高校に行けるというのに、少しも喜んだ表情には思えなかった。


サッカーを諦めたことを後悔しているとも違う。

ただ、もっと根本的な何か…


それは多分、過去そのものを悔やんでいるような……


まるで、そんな目をしていた。




「……」



閉会のことばを終えて、流れ始める退場の音楽。


明日にはもうここへは来ない、
先に卒業して行ってしまう広瀬先輩を見送って

私自身、きっとどうしようもなく泣いてしまうんじゃないかと思っていたけど



不思議と涙は今…こぼれなかった。