急に走ったせいか、はぁはぁと息が切れる。

腕は掴まれたまま肩で息をする私に、隼人が口を開いた。


「また先輩…か?」

「……」

「広瀬先輩のこと、そんなに好きなのか?」


隼人の言葉に、私は声を発することが出来なかった。

今も顔を俯かせたまま、ただコク…と頷いてみせる。


「はっきり言って、俺には先輩のどこがいいのか分かんねーし。納得もしてないけど…」

「……」

「でも俺は、そんな優衣も含めて好きだから」


思いもしなかった隼人の告白に、流れ出ていた涙が一瞬ピタリと止まる。



「……え?」


このとき、ようやく振り向いて泣き顔をさらしてみせた私を

どこか少し切なそうに、でも優しい目をして見つめ返してくれた隼人。


掴んでいた腕をゆっくり離すと、そのまま私の手を取った。



「…先輩のこと、好きでいていいから」

「……」

「先輩のこと好きなままでいいから、傍に居さして」



その瞬間、涙が一気に込み上げて何も見えなくなった。

それでも手のひらには確かに伝わってくる温もり。


「……っ」


…人の気持ちはそう簡単に変われない。

私の気持ちも


隼人の気持ちも。



「………うん」



これが正しいことかは分からなくても

私たちは傍にいることを選んだんだ。