えっ、なに…?


「推薦を止めて他を受験するだと?何をバカなことを言ってる。こんなチャンス二度とないぞ!」


その声に驚いて一瞬腰が引けてしまいながらも、職員室では男の先生が1枚の紙を手に、広瀬先輩を叱咤しているようだった。


…このとき先輩はちょうどわたしから背を向けるようにして立っていて、その表情はうかがい知れない。


他の生徒である私が扉の隙間から見ていることも知らずに、
先生は相変わらず険しい表情を浮かべながら、どこか先輩を説得するようにこう話し始めた。


「大会が終わってからどうも様子がおかしいとは思っていたが、広瀬。これが原因だったのか」

「……」

「大人は皆、お前の才能を買ってる。今さら北高校に行きたいなんてバカげたことを言うのは止めなさい」


…北高校?

高校のことはまだよく分からないけど…

夏休み…他の三年の先輩たちは、広瀬先輩がスポーツ推薦で行けることを羨ましがっていた。

だから私もそうだと思い込んでいたのに、急に違う高校を志願するなんて、いきなりどうして?


! まさかこれもーー加奈子さんが関係して……?



このとき、広瀬先輩は先生に向かって何か言っていたようだったけど、その声はもう私の耳には届かなくなっていた。


物音に気づかれないよう、そっと扉をしめる。


「………」