「あっ、優衣姉ちゃんだ」

「! 優衣」


弟の呼ぶ声に、しゃがんで相手をしていた隼人が顔をあげる。

…このとき目が合ったものの、ハタと自分の格好に気が付く。


「……」


約束したはずの浴衣姿どころか、今は髪のセットも何もされてない、Tシャツにただ短パンというラフすぎる普段着…。

情けない気持ちと恥ずかしさで下を向いた。


「…ごめん隼人、浴衣着てくるって約束したのに。でも雨で汚れちゃうし…」

「あ、いや俺こそワリ、気遣わせて。それに祭りは中止だって…」

「……」


中止……

そっか、そうだよね。

台風が来る夜にお祭りなんて普通、やんないよね。


ずっと楽しみにしてたのにな


神様の、バカ……


「……」

「優衣…」


寝起きのせいもあってか口をへの字に曲げて半べそ状態の私に、隼人が手を伸ばす。


でもこのとき

そんな私たちのやり取りを下からジーっと見上げている弟と
影からこっそり覗き見ていた父と母。



「は、隼人ごめん!ちょっとこっち来て…!」


それに気づいた私はとっさに隼人の手を掴むと、あわてて2階を駆け上がった。