「……」


隼人、大丈夫かな。


さっきの電話もあってか隼人がくれたこのテディベアも、なんだか今は表情が落ち込んでいるようにも見える。

少しでも笑った顔に戻るよう、そのふわふわとした茶色い毛を撫でてみるものの、今度は私の表情が暗くなってきた。


“正直、今日の試合も先輩がいなかったら負けてた”


広瀬先輩…

この大会が終われば、3年の先輩はサッカー部を引退してしまう。


そして来年の春にはもう―――…


その予感が頭がよぎったとき、私は急いで首を横にふった。


「……」


やめよう。

先輩のことは思い出さない。考えたくない。


今はただ…


(会いたいよ、隼人…)


遠く離れて会えない隼人を想いながら、テディベアを抱きしめた。




…にしても

隼人がくれた物とはいえ
中学生にもなって毎晩ぬいぐるみと一緒に眠るなんて痛すぎるよね、さすがに。
(でも今じゃこれがないと眠れなくなってしまった…)


「ま、まぁいっか。誰にも見られてないんだし」

「優衣いるの?入るわよ」


まだ誰にも目撃されていないのを良いことに開き直っていたら

不意にドアをノックする音がしてお母さんが入ってきた。


「……」

「ゆ、優衣ったらどうしたの。クマ?のぬいぐるみなんて抱きしめて…」

「あ…あはは、いやぁこれはその…」

「それより優衣が着たいって言ってた浴衣、タンスから出しておいたけどこれでいい?」

「あっ、それ!お母さんありがとう!」


そうそう、そうだった。


お母さんがわざわざタンスから引っ張り出して持ってきてくれたその浴衣は
白地に淡いブルーのお花絵をあしらった夏らしく涼しげなデザインのもの。


この浴衣を着て、隼人とお祭りに行くんだ。


さっきまで恥ずかしい思いをしていたのもすっかり忘れて
まだ透明袋に入ったままの浴衣へ飛びつく私とは対照的に、お母さんはどこか困惑気味な様子でため息をついた。


「でも優衣、本当に大丈夫なの?」

「?なにが?」

「30日は台風が来るってさっきテレビで言ってたけど」