「広瀬先輩ってさ、サッカー上手いよね」


ちょうど隣を広瀬先輩のファンの子が座っていたのだろうか。

1年生らしき二人組が声をひそめて話していた。


「でもあれだけ凄いんだもん…やっぱり彼女とかいるよね」

「や、それが今いないみたいだよ」


盗み聞きするつもりはなかったものの、内容が内容なだけに息をのんでしまった。

同時に色めきたつ声。


「うそ?ほんとに?」

「ほんとほんと。だから告っちゃえ」

「えっ、でも…どうせフラれるし」

「当たって砕けてもいいじゃん。卒業したらもう会えなくなるんだよ。言わずに後悔してもいいの?」



自分が言われているわけじゃないのに動悸がした。

落ち着こうと肩で息をする。



「……」


"言わずに後悔してもいいの?"


…バレンタインの日。


私は広瀬先輩に告白しようと決めて結局、伝えられなかった。


先輩と加奈子さんは幼馴染みで

はじめから二人は両想いだと知ってしまったから。



このまま言わずに忘れていく方が、相手にも自分にとっても良いことだと思ったんだ。


でも、ほんとうは…






知らず知らずのうちに、先輩を目で追いかけようとしていた矢先

誰かからの視線に気が付く。



――隼人だった。



私はパッと目をそらす。



「……」