「あのさ栗原。これから栗原のこと、下の名前で呼んでいい?」

「え…?」

「もう付き合ってんだしさ。苗字呼びしてんのも、よそよそしくね?むしろ俺が名前で呼びたいっつーか」


そうは言っても本音は照れくさいのか、今も繋がれている隼人の手は妙にぎこちない。

さっきから何度も手を握り直されている状況に、私は顔を真っ赤にしながらも頷いたんだ。


「うん、いいよ…」

「……」

「た、試しに今…呼んでみてほしい」

「い、今?」


私の要求に、言い出しっぺの隼人がちょっとだけ怯む。

それでもなお私が大きく頷いてみせると、わざとらしく咳ばらいをした隼人がゆっくりと口を動かしてみせた。



「優衣」

「……」



出会ってからたった今初めて、隼人が私の下の名前を口にする。


その瞬間、お互いの頭上をカァ~っと言う真っ赤な文字が浮かんだような空気になり、私たちはほぼ同じタイミングで俯いた。



「…わり。自分で言い出しといてアレだけど、やっぱむちゃくちゃ恥ずかしい…。少しずつ慣らして呼んでいくでもいい?」

「っうん!私も。それがいいと思う(呼ばれる方も心臓が持ちそうにない…)」



さすがに、今日いきなり呼び方を変えるのはお互い恥ずかしすぎたので

焦らず徐々に変えていこうと言う事でこの話は落ち着いた。