男は大股で思葉に歩み寄ると片膝をついた。


その手にはやはり見覚えのある太刀が握られている。


何も言えないでぽかんとしている思葉の顔を心配そうに伺ってくる。


黒曜石に似た瞳だと思葉は感じた。



「大丈夫か、思葉?」



どうにか思葉は頷いた。


男は上体を少しだけ引いて思葉の全身に視線を滑らす。



「今のやつに相当こっぴどくやられたみたいだな。


どこも痛まないか?


怪我はしていないか?」



また首肯してみせる。


すると男がほっとした顔つきになった。


引き結んでいた口の端をわずかにゆるめる。



「よかった……今度は護れて」



思葉は動転しっぱなしの胸をさすって軽く気息を整えた。


背筋を伸ばして男と視線を交わせる。



「あの」


「む、どうした、やはりどこか痛むのか?


それとも怪我を負っているのか?」


「いや、そうじゃなくて。


……もしかして、あんた、玖皎なの?」



思葉が尋ねると、男が半ば呆れた表情になってため息を落とした。



「おまえは何を言っているんだ、おれに決まっているだろう」



やっぱり、この男の声は玖皎のものに違いなかった。


口調も玖皎のものである。