――ひたり。



首筋に、氷かと思うくらい冷たいものが押し当てられた。


直後、思葉の視界にまばゆい閃光が走り、その中に古い映写機のようなモノクロの映像が複数、瞬間的に流れた。


鏡の前に座る女。


自分の傍らに立つ恋人に微笑む男。


泣き叫んでいる女。


散髪用の鋏を掴む白い手。


恨みと憎しみがないまぜになった充血した目――。


それらが一瞬だけれど、思葉の網膜に焼き付くように流れ消えてゆく。


我に返ると、視界は天地逆さまになっていた。


思葉は仰向けに倒れていた。


そこへ女が馬乗りになり、片手で思葉の首をわし掴んでいる。


皮膚がぼろぼろになった顔がすぐ近くにあり、思葉はすくみあがった。


女が灰色の唇をめくりあげ、薄汚れた歯をみせてニタリと笑う。



「捕まえた……これで、わたしより奇麗な髪が減る。


わたしは一番に近づける……ふふ、うふふふ、あははははははは」



渇いた砂のような笑い声に思葉は悪寒をおぼえた。


女の冷たい手を引きはがそうと爪を立て、首を左右に振る。


両足もじたばた動かして抵抗した。


けれど女はまったく意に介さず、歪んだ笑みをますます深めて鋏を思葉の髪に近づけていく。


髪を切られることよりも、このままこの女の好き勝手にされてしまうことに対して嫌悪感が渦巻く。



(いやだ、いやだ!)



たまらなくなり、思葉はきつく目を閉じて息を吸い込んだ。