部屋の中央にいる女はよく聞き取れない低い声でぶつぶつ言いながら、長い髪を自分の歯手足の如く操っている。
思葉を狙って長テーブルを投げ飛ばしたのも彼女の髪だ。
そのうちの一房が触手のように硝子製の和物の卓上ランプを絡めとる。
そして、よろよろ立ち上がる思葉に向かって投げつけた。
ランプは思葉の側頭部をかすめ、壁に激突し砕ける。
思葉は短く息をすいこんだ悲鳴しかあげられなかった。
襲われる恐怖と、立て続けに起きる現実離れしすぎた事態への混乱と、逃げ惑っているうちにぶつけた身体の痛みとで、叫ぶ気力など残っていない。
「あっ」
何かに足を取られ、思葉はもんどりうって倒れた。
硬い床についた両腕が痺れるように痛む。
足元を見てみると、右足に女の髪がまとわりついていた。
浴槽の中で感じた感触によく似ている。
「いやっ、離して……」
急いで足を抜こうと思葉は髪を掴んだが、解こうとすればするほど逆に両手から方へと絡み付かれてしまう。
不快さが身体中を駆け巡った。
「や、やだっ、なにこれ、離してよ」
思葉は半分パニック状態になってもがく。