女はドアから鋏を抜き、床に落ちた思葉の髪をつまみ上げた。
口角を歪に引きつらせてそれを握り締める。
熱した鉄板に水を掛けたような音を立てて、髪は女の拳から消えた。
輪郭の光が少し強くなったように見える。
常軌を軽々と逸した光景に思葉は唖然とした。
(なに、今の……あの人、人じゃない――っ!)
最初目にしたときから薄々感じていたことにようやく頭と心が追いつき、確信する。
それによってさらに恐怖が沸き上がった。
思葉は急いで番台にもどり、硝子戸にとびついた。
案の定、こちらも開く気配がない。
いくら引っ張ってもガタガタすら言わなかった。
閉じ込められた。
逃げ場所がどこにもないという絶望感が思葉を侵食していく。
「そんな、嘘でしょ……。だ、誰か、誰か出してぇっ!」
叫んでもここには思葉以外誰もいないので意味がない。
それでも思葉は硝子戸を叩き続けた。
「お願い、誰か、誰か……っ!」
背後で物音がする。
和雑貨を並べていた長テーブルが思葉に勢いよく迫ってきた。
「きゃっ……!」
間一髪で硝子戸と挟まれる事態を免れ、思葉はまた床に転がった。