もつれる足を懸命に動かして表通りに面するドアにたどり着いた。
震える指でつまみを回して鍵を外し、取っ手を掴みながら親指でボタンを押す――しかし、ドアは動かなかった。
焦った思葉は何度もボタンを押したがびくともしない。
「なっ、なんで!なんで開かないの!?」
バンバン叩いたり蹴ったり、体当たりをしてみるが、ドアは壁と同化してしまったかのように固い。
「ふざけないでよ、開いて、お願いだから開いてっ!」
「逃がさない」
すぐ後ろから殺意を具現化した声がする。
ハッとして思葉が顔を向けたとき、鋏の先端が目の前に迫っていた。
思葉は息をつめてとっさにしゃがむ。
――ダンッッッ!!
遅れてついて行こうとした髪が、鋏によってドアに縫い付けられた。
頭を強く引っ張られて思葉は呻いたが、歯を食いしばってドアの前から離れる。
ぷちぷちっと音がして髪が一気に何本か抜けてしまった。
たくさんの針でつつかれているように痛む襟元のあたりを押さえて、思葉は髪が片方ほどけているのに気づいた。
もう一方もヘアゴムが毛先までずり下がっていてほとんど役目を果たしていない。
顔が濡れている。
思葉は自分が泣いているのだと自覚した。
「髪……奇麗な、髪……」