「その髪、一本残らず刈り取ってやる――!」
女が鋏を開き、土気色の左手を思葉に向かって伸ばす。
そこでようやく動けるようになって、思葉は番台から飛び降りた。
からっぽになった番台に女がとびかかり、硝子戸に激突する。
少し離れたところで思葉は振り返り、違和感に戦慄した。
開けっ放しにしておいたはずの硝子戸がいつの間にか閉まっている。
頑丈なつくりではないのであれだけ強くぶつかれば壊れてもおかしくないのに、曇り硝子にはヒビすら入っていなかった。
(おかしい、絶対におかしい!どうなってんのよ!?)
「うぅ……憎い、憎い、憎い――わたしよりも奇麗だなんて、そんな女、赦さないっ!」
髪の塊にも見える女が身体の向きを変え、強く畳を蹴る。
人間では考えられない跳躍力だ。
「いやあああっ!」
思葉は床に倒れこむ形でどうにかかわす。
さっきまで思葉が背にしていた食器棚に女が頭から突っ込んだ。
あと一拍、動き出すのが遅れていたら……。
無残な姿になった食器棚を見て思葉はぞっとした。