(なっ……)



こちらを振り向いた女を見て絶句する。


女の姿は楚々としたものから、おどろおどろしいものに一変した。


奇麗だったはずの髪はとことん荒れ乱れ、打掛の裾のように床に波打って広がっている。


ぼろきれ同然の着物からは痩せこけて土色の肌をした手足が伸び、髪に埋もれているが辛うじて見える右手には鋭い光が一瞬走った。


髪の隙間からのぞく血の気のない唇が動く。



「赦さない」



打って変わって冷えきった声が耳朶に触れた。


思葉は自分の身体が震えているのに気づいていたが、その場から動けなかった。


根を張っているかのように足が動かない。


声が出ない、目を逸らせない。



「奇麗な髪をもっているだなんて……わたし以外にいるだなんて……赦さない。


わたしよりも奇麗だなんて赦さない。


赦さない、赦さない、赦さない赦さない赦さない――」



声に怒気と荒々しさがこもっていく。


恐怖のあまり番台から動けないでいる思葉に、女は恨み言を並べながらちかづいていった。


迫ってくる女の右手にある光の正体が、鋏だと思葉が認識した瞬間。


少しうつむき加減だった女の顔が勢いよく上がった。


憎悪に満ちた瞳に射抜かれ、思葉はひっと喉の奥から悲鳴を漏らした。