ぱちんっ
頭上で何かがはじける音が鳴る。
同時に視界が一瞬で真っ暗になった。
突然の暗闇に首のあたりがヒヤッとした、心臓が縮み上がったような気もした。
「なっ、なに!?」
びっくりしてたたらを踏んだとき、つま先に何か軽い物が当たった。
手探りして拾ってみると、鼻腔を刺激する強さをまとった甘い香りが漂う。
木箱の蓋だった。
「これって、まさか……」
思葉は番台の下に置いておいた木箱を確かめようとして、途中でぴたりと止まった。
真っ暗だったはずの部屋がぼんやりと明るい。
全体が紅の混ざった藍色のように見える。
部屋を薄明るく照らしている光源は中央にあった。
蓋を取り落としたことにも気づかず、思葉はそこに立つ人影を見つめた。
縦縞の着物姿の女が、わずかに光る輪郭を持ち、思葉に背を向けて立っている。
さっきまでそこに居なかったはずだ。
予想外の出来事の連続で頭がついてこれない。
だから悲鳴を上げることも身動きすることもできず、ただ棒立ちになってその人を見つめているしかなかった。