店につながっている硝子戸が、猫が通ったかのように細く開いている。


さっき降りてきたときは閉まっていたはずだ、当然この家に猫なんていない。


遠ざかっていった恐怖がまた一気に湧き上がり、どくどく鼓動が速くなっていく。


思葉はパーカーの裾をきゅっとつまみ、硝子戸に近づいて取っ手に指をかけた。


呼吸を繰り返してゆっくり開き、意を決して中を覗く。


電気をつけていないし、カーテンで外の光もわずかしか入ってこない部屋は暗い。


辛うじて棚や商品の輪郭がぼんやり認識できるくらいだ。


誰もいないことを確認して早く安心したくて、思葉は壁を探り照明のスイッチを押す。


明るくなった室内は、木箱を置いて出たときと少しも変わっていない。


荒らされたような形跡も、誰かがいた形跡もなかった。



「ほ、ほら、やっぱり何もないじゃない。


あー、怖がって損した、鍵だけ見てさっさと上行こ」



安心はしたけれど、完全に恐怖が払拭できたわけではない。


怖さを紛らわすために独り言を口にしながら、思葉は敷居をまたいだ。