シャワーを浴びて泡を落とし、思葉はもう一度湯船に入った。
伸ばした足が向こう側の壁に届かないのがちょっと不満だ。
高校を卒業するまでには、せめてつま先を伸ばせば届くようになっていたい。
お湯に浸って広がる髪を持ち上げて簡単にまとめる。
のんびりマッサージをしていると、お湯の中に黒い細い線が数本走っているのに気付いた。
思葉の抜け毛だ、湯船につけてしまったせいで余計に浮いている。
お風呂から出たらまとめてゴミ箱に捨てようと、一本ずつつまんで洗面器に張り付ける。
「え……なに、これ……」
目に入った最後の一本を捕まえたとき、思葉は訝しげに眉をひそめた。
異様に長い髪の毛だったのだ。
思葉のものの何倍もある、2メートルは超えていそうだ。
(なに、この髪の毛、あたしのじゃない……でも、一体誰の?)
思葉がそう考えた瞬間。
浴槽の中が真っ黒になっていた。
墨汁を溶かし込んだように見えるそれは、すべて長い髪の毛だった。
それらはゆらゆら不気味に揺蕩い、思葉の胸元から下を呑み込んでいる。
細く柔らかな糸のようなものが全身をそっと撫でている――